大人の死角から真っすぐに繰り出される、子どもたちのスリリングな質問力『夏休み子ども科学電話相談』
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しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。
大人の世界では近ごろ頻繁に「ソリューション」なんて言葉がもっともらしく連呼されているが、解決以前にまず「そこにどんな本質的問題があるのか」を見出せなければ話にならない。答えの前には必ず疑問があり、質問がある。そういう意味では「ソリューション」より、「クエスチョン」のほうが偉大だ。今年で30年目を迎える長寿番組『夏休み子ども科学電話相談』(NHKラジオ第1 月~金曜8:05~11:45)をいい大人が聴いていると、つくづくそう思わされる。子どもは「気づき」の天才だ。
いまやネット上であらゆる解決手段が見つかる(本当にそれが解決なのかは別にして)時代だが、この番組は子どもたちと生電話をつなぎ、各分野の専門家の先生方が答えるという古典的スタイルを貫いている。生放送で、相手が子ども、その上表情が見えないという不確定要素の多いこの状況は、自由度の高いラジオの世界でも今どき稀少であり、サプライズ発生率の高さと対話のスリルという意味では、むしろ先鋭的ですらある。
子どもたちの質問の面白さは、何よりもその「角度」にある。見えている世界が同じでも、眺める角度を変えると世界はまったくの別物になる。そしてその想定外の角度は、多くの場合「前提となる知識がない」ことによって生まれている。無知は時にクリエイティブな発想を生む。たとえば6歳の女の子は、「どうして亀は鳴かないんですか?」と質問する。鳴くことよりも、鳴かないことを不思議に思うという発想は、彼女の中に「動物はすべて鳴くものだ」という、知識に基づかない独自の前提条件があることを意味している。「鳴かない動物もいる」と彼女がすでに知っていたら、きっとこんなユニークな質問は出てこないだろう。
加えて子どものすごさは、やはりその発想の異様なストレートさにある。ある少女が発した「ビワの木に砂糖水をあげたら、ビワの実は甘くなりますか?」という問いには、「そういえば、なんでそうじゃないんだろう?」と思わせる不思議な説得力がある。「甘いものを育てるために、甘いものをやる」というのは至極当たり前の発想に思えるが、どうやらそうではなく普通の水をやるべきだということは、みんななんとなく知っている。常識として知ってはいるが、しかし本質的にわかってやっているわけではない。「知っていることを習慣的にやっている」というだけの場面が、人間の生活には少なくない。子どもが真正面に捉えている視野が、大人にとっては死角であるということも珍しくない。この質問には、「知る」ことを「わかる」ことだと勘違いしている大人に警告を発するような、真っすぐな破壊力がある。もちろん質問した本人にそんな意図は微塵もない、というところが微笑ましいのだが。
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