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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.233

マッチョ信仰を過激に凌駕する“人体改造”願望! 香港カンフーリミックス『アイアン・フィスト』

ironfist02.jpg危険な匂いがする場所につい足が向いてしまう流れ者のジャック・ナイフ(ラッセル・クロウ)。一度に3人の娼妓を相手にする性豪ちゃんだ。

 タランティーノにとって最大のヒット作となった西部劇『ジャンゴ 繋がれざる者』は南北戦争前夜の米大陸が舞台だったが、『アイアン・フィスト』もほぼ同時代という設定。ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)が雪山で射撃の特訓を積んでいる間、中国大陸に渡ったブラックスミス(RZA)は“叢林村”で鍛冶屋を営んでいた。スミスの強靭な肉体によって叩き上げられた刀剣や甲冑は大変な評判だった。寡黙に働き続けるスミスの願いはただひとつ。娼館ピンク・ブロッサムに勤める娼妓レディ・シルク(ジェイミー・チャン)を身請けして、2人きりの平穏な生活を送ることだ。ジャンゴが愛する妻を奴隷農場から救出することに体を張るように、スミスもまた愛する女性のために滝のような汗を流し続けていた。

 スミスとシルクの人種の壁を越えたラブロマンスを引き裂いたのは、武装集団・猛獅子会の権力闘争だった。野心家である銀獅子と銅獅子はボスである金獅子を謀殺。金獅子の息子であるゼン・イー(リック・ユーン)は全身に仕掛けが隠されたブレードXで仇討ちを挑むが、銀獅子が雇った最強助っ人・金剛(デビッド・バウティスタ)に敗れ去ってしまう。この金剛は自分の肉体を真鍮に変えることができる特異体質の持ち主だ。傷ついたゼン・イーを匿ったため、スミスは鍛冶屋の命である両腕を切断され、シルクも絶体絶命の危機に。怒りの炎に包まれたスミスは流れ者の遊び人ジャック・ナイフ(ラッセル・クロウ)にサポートされ、最強金属を鍛え上げて作った“鉄拳”を装着。病み上がりのゼン・イーと共に復讐を誓う。

 最強戦士を決定する場となるのは、娼館ピンク・ブロッサム。身請けに失敗した男が常軌を逸して遊郭で大量殺戮を繰り広げるという展開は、江戸時代に実在した殺傷事件を舞台化した歌舞伎の人気演目『籠釣瓶』を連想させる。行き場を失った性欲が、温厚な人間を暴力兵器へと変貌させるのだ。肉体が凶器化するというモチーフは、塚本晋也監督が『鉄男』(89)や『東京フィスト』(95)で度々扱っているものでもある。また、ピンク・ブロッサムを経営するマダム・ブロッサム(ルーシー・リュー)もただの遣り手ババアではなく、娼妓たちをセックスを武器にした暗殺者に育て上げる“くのいち軍団”の女ボスという正体が明かされる。ここらへんは、マギーQ主演の香港エロチックアクション『レディ・ウェポン』(02)の世界。アクション、エロス、ラブストーリーといった様々なエンタメ要素を、おのれの肉体を鋼鉄に変えてしまいたいという男性特有の変身願望が豪快に呑み込んでいく。

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