イオン家電、保湿効果やうるおいは無関係?度重なる改善命令でも誇大広告消えないワケ
#家電 #イオン #シャープ
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イオン家電、保湿効果やうるおいは無関係?度重なる改善命令でも誇大広告消えないワケ – Business Journal(7月14日)
●払拭されていないマイナスイオンのブランドイメージ
2013年6月、テレビショッピング番組で紹介された漬け物容器に関して、消費者庁は販売会社に対し、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)に基づく措置命令を出した。(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/130627premiums.pdf)
「電気石タウマリン」を含んだ陶器から出る遠赤外線と「マイナス電子」が、容器内の乳酸菌の増殖を早め、通常のホーロー容器に比べて、短時間でおいしい漬け物ができるという触れ込みだった。
もちろん、そんな説明に科学的な根拠はない。遠赤外線が菌の増殖を促進するというのも怪しいが、「電気石タウマリン」や「マイナス電子」に至っては、他でほとんど聞かない名前の物質だ。恐らく「トルマリン」と「マイナスイオン」に独自の名称を付けたのだろう。
そもそも「マイナスイオン」も以前から「ニセ科学」の代表的な存在とされてきた。とはいっても、今でも「健康にいい」ものと思っている人がかなりいるのも事実。「ニセ科学批判」の情報が届いていない層は、まだまだ多いのが現状だ。
1990年代末から2000年代前半にかけて、「空気のビタミン」などと呼ばれたこともある「マイナスイオン」は、「健康にいい」とか、「癒し効果がある」などとテレビや雑誌でもてはやされた。だが、人によってその定義すら異なるなど、多くの疑問が呈されていたものだ。発生源も滝や森林、トルマリンから、プラズマ放電・コロナ放電に至るまで多岐にわたっており、結局のところ、喧伝されたような「健康効果」は確認されなかった。
さらに、マイナスイオンの効果を謳って販売された製品には、たびたび行政からチェックが入ってもいる。03年には健康器具が薬事法違反に問われ、06年には複数の会社が景品表示法に基づく指導を受けた。
だが、マイナスイオンは家電製品の機能として生き残った。当初はオールマイティな「健康効果」を宣伝していたメーカーも、次第に放電による「消臭」や「除菌」といった効果に絞っていったのだ。だが、それで十分だった。一時のブームが去ったとはいえ、「マイナスイオンは健康にいい」というイメージは広く消費者に定着していたからだ。
結局、「マイナスイオンとはなんだったのか?」という問題を棚上げにして、昔のイメージのまま定着してしまったというのが実態だ。しかも、日本を代表する大手家電メーカーが堂々と発売しているのだから、まさか「科学的な根拠がない」とは思いもよらない。
●多様化するイオン式ヘアドライヤー
イオン発生機能を搭載した家電といえば、空気清浄機やエアコンなどの空調機器のイメージも強いが、普及度という点から見るとヘアドライヤーのほうが上だろう。11年度の国内販売台数約580万台のうち、7割以上がイオン機能付きの機種だといわれている。普段、気にせずに使っている機種も、よく見るとイオン機能付きかもしれない。
かつてはトルマリン粉末を混ぜただけのものもあったが、最近のイオン発生機は、プラズマ放電や静電霧化といった技術で空気中の水分子を帯電させるなどの改良が加えられている。さらに、メーカーが開発した発生方式を備えた製品に、「ナノイー」(パナソニック)、「プラズマクラスターイオン」(シャープ)、「ピコイオン」(東芝ホームアプライアンス)、「ナノイオン」(日立リビングサプライ)など、独自の名称をつけているところも多い。これらはイオンの名称ではないし、基本的なメカニズムは、マイナスイオンとさほど変わらない。
それでは、ヘアドライヤーに搭載された「イオン機能」にはどのような効果があるのか? よくいわれているのが「保湿効果と静電気防止効果」だ。さらに、各メーカーのカタログやホームページを見ると、「髪の水分バランスを整える」「キューティクルを引き締め」「艶のある髪に」といった表現が多用されているし、「皮脂をケア」して「地肌にうるおい」を与えるなどとも書かれている。
最近の機種の説明を読むと、放出されたイオンと結合した空気中の水分子が、髪の毛としっかり結びつくのだとか。メーカーによる実証検査のデータも公表されているので、効果は確かにあるようにも見える。だが、そうした「保湿効果」や「うるおい」がイオンによるものかどうか、判然としない面もある。イオンとは関係なく、風量や温度調整などの機能によるものではないかという意見もある。ちなみに、もう一つの「静電気防止効果」については、特に問題視されてはいないようだ。
●性能表示に東京都が改善要請
結果が出たのは12年7月だった。東京都生活文化局が、国内の大手家電メーカーが製造する複数のイオン機能付きヘアドライヤーに関して、景品表示法に基づいて改善を要請した。対象となったのはパナソニック、シャープ、日立リビングサプライ、東芝ホームアプライアンスの4社。カタログなどに掲載されたデータも、「消費者の一般的な使用方法とは乖離した試験条件等による実証試験に基づいて効能効果を表示していたことが判明したため(中略)より適切な実証試験を行うよう改善を要請」したという。さらに業界関連団体である全国家庭電気製品公正取引協議会に対しても、性能や効能効果について、「消費者の一般的な使用方法に即した試験を行うこと」も要望している。(http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2012/07/20m7b300.htm)
東京都の示した改善点を要約すると、以下のようになる。
(1)「冷風モードで20~30分使用」など、一般的な消費者の使用実態とかい離した設定の実証試験を行って、効果があったと謳っている。(4社中3社)
(2)実証試験の被験者が1人だけだったというケースもあり、誰が使用しても同一の効果があるとは言い難い。(4社中3社)
(3)使用後に頭皮の皮脂が減少したとしているが、それがイオンによる効果であるかは実証されていない。(4社中2社)
つまり、通常の使用環境で使っても、カタログに表示された性能は発揮されないケースがあるということだ。これまではこうした「イオンの効能効果」を実証するための試験は、JISなどの公的基準も定められていない。各社の判断で独自に検証しているのが実態だった。
●効果がないことを取り上げないメディア
ただし、こうした措置が取られても、製品そのものが発売中止されるわけではない。景品表示法は広告などの不当表示を防ぐための法律だ。基本的に、担当部局の指示に従って表現を修正すれば問題はない。
とはいえ、問題はこうした情報が一般消費者に承知してもらえるかどうかだ。昨今のツイッターやSNSを見ればわかるように、一度拡散したものは、後で取り消そうとしても手遅れのことが多い。元の投稿を削除・訂正しても、リツイート(RT)されてしまえば、投稿者の手を離れてどんどんと広まってしまうのだ。
メーカーとしてみれば、「こんな効果がある!」ということはどんどん宣伝したいが、「実は効果がなかった」となると積極的になることはない。メディアが独自に報道しなければ正しい情報は伝わらないのだが、それが難しい。
新聞には訂正記事が掲載されるが、ごく小さな扱いだ。テレビでは短いニュースくらいはあるものの、情報番組には登場しそうにない。雑誌も同様だ。健康・美容情報を扱うある雑誌の編集者に、こう聞かされたことがある。
「イオンは効かないだろうなと、個人的には思っていましたが、健康雑誌のテーマとして『効くか効かないか』は取り上げづらいのが実情です。『こんなに効く!』という情報なら取り上げますが、『いかに効かないか』は雑誌としても扱いにくい。人体に悪影響があるということが実証されれば、報道する必然性はありますが……」
このコメントに、「ニセ科学報道」の在り様は要約されている。「こんなに効く!」としてさんざんメディアで紹介された後に「効果はなかった」とわかっても、インパクトがないのだ。結果として消費者の意識には、最初の「こんなに効く!」という情報だけが残ってしまう。
この改善要請を受けた各社は、すぐにカタログやホームページの表示を訂正した。問題の箇所はすでに削除されるか修正されており、今ではどの部分が景品表示法に違反していたのかわからない。問題視される前に宣伝していたままのイメージを保って、同じ製品が売り続けられることになるのだ。
ちなみに、改善要請を受けた4社のうちの某社は、それから4カ月後、同じイオン発生器を搭載した掃除機で、景品表示法に基づく措置命令を消費者庁から受けることになる。
(文=六本木博之/フリーライター)
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