キュウリから原発まで語り尽くす、硬軟自在の吉川ワールド『D.N.A.ロックの殿堂~吉川晃司 Samurai Rock~』
#ラジオ #吉川晃司 #逆にラジオ
一方で震災や原発について語る際には、「臭いものにはフタをする」この国の政治体質に真っ向から異を唱え、後世に汚名を残すなと警鐘を鳴らす。そしてもちろん、自らも被災地のために具体的な行動を起こしている。
そんな吉川独特の価値観の根底には、彼が歴史から学んだ骨太な人生観がある。吉川は「亡くなったときに初めて人間がひとり完成する」と語り、「死ぬ直前まで夢の途中。旅の途中」だと断言する。さらには、「『人生折り返し地点』という言葉が好きじゃない。折り返してどうすんだよ」と市井の価値観を覆しにかかる。彼が番組内で口にする「朱に交わっても赤にならない」「長いものには巻かれず巻き返せ」「石橋は泳いで渡れ」といった言葉も、吉川が歴史から学び自ら実践してきたこと、あるいは自ら実践したことの答えを歴史の中に見出したものだろう。そしてどんなに真面目なことを語っても、そこにユーモアがあるというのがまさに吉川晃司である。
そもそも価値観というものは、わざわざ振りかぶって提示するものではなく、その人の根底に常に横たわっているものだから、硬軟問わずどんな話題においても必ず見え隠れするはずのものなのだが、それがメディアに乗っかって表れてくるシーンは、残念ながらあまり多くはない。局や番組側の事情によってフィルターをかけられているか、語り手自らがフィルターをかけて過剰防衛しているか、あるいは自分なりの価値観なんてものが語り手に最初からないか。しかしパーソナリティーの価値観が明確にあり、周囲が無駄なフィルターをかけなければ、番組は確実に面白いものになる。もちろんその人選と環境整備が何より難しいのだが、それがラジオ本来の魅力であり、昨今の演出過剰なエンタテインメントが見失いがちな本質でもあるだろう。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)
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