キュウリから原発まで語り尽くす、硬軟自在の吉川ワールド『D.N.A.ロックの殿堂~吉川晃司 Samurai Rock~』
#ラジオ #吉川晃司 #逆にラジオ
しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。
いま最も格好いい歳の重ね方をしている男のひとりが、吉川晃司だろう。ミュージシャンとしての活躍はもちろん、大河ドラマ『八重の桜』(NHK)の西郷隆盛役から『チョコモナカジャンボ』のCMに至るまで、ある種、ムチャ振りとも思えるキャラクターすら演じてみせる吉川の振れ幅と懐の深さは、ちょっと驚異的ですらある。そしてこの「幅」と「深さ」の両立こそが、吉川の魅力の真髄である。穴を深く掘るには幅が必要であり、幅を保つには深く根差した揺るがぬ軸が必要だ。
『D.N.A.ロックの殿堂~吉川晃司 Samurai Rock~』(JFN系 FM秋田 毎月第4月曜20:00~20:55ほか)は、まさにそんな吉川の「幅」と「深さ」を同時に感じられるラジオ番組である。残念ながら関東では放送されていないが、ポッドキャストで聴くことができる。
番組を聴いてまず驚くのが、その話題の振れ幅の大きさである。「今年はキュウリが大豊作で、毎朝2本ずつ収穫しております」といった趣味の家庭菜園の話や、飼っているメダカやウーパールーパーの話、そして音楽やドラマなど仕事の話はもちろん、震災以降は原発、TPP、消費増税やアベノミクス等の政治的話題に至るまで、吉川のトークは硬軟分け隔てなく自在に展開する。そして、放送初回冒頭で吉川が「自分なりの価値観を話していければ」と語ったように、ジャンケンでグーでもチョキでもパーでもない何かを堂々と繰り出してくるような、吉川独自の価値観があらゆる箇所で思わぬ角度から提示される。
たとえば正月の放送で吉川は、おみくじでは「凶」が好きだと語った。3年連続で「凶」を引いたがいずれも当たり年だった、とのことだが、「俺は名前に『吉』がついてるから、あんまり『吉』がめでたくない。普段からあるから別にいらない」という。なんだかものすごい屁理屈にも思えるが不思議と説得力があって、何より面白い。既存の価値観をそのまま受け入れるのではなく、新たな角度から自分流に解釈するのが吉川流である。彼は「知識をいかに知恵に変換するか」が大事だと語る。「知識は己の身体に一回入れてから頭に戻さないと、知恵には変わらない」と。
またある時は、豪雨の中、ずぶ濡れの人に自分の差している傘を貸してあげるべきだったかどうかと今も悩んでいるというリスナーのメールに対し、吉川は意外な答えを述べる。そのずぶ濡れの人は、雨に打たれることで、何かを洗い流して帰りたかったのかもしれない、と。もちろん、それが正解かどうかは永遠にわからないが、非常に想像力豊かで詩的な発想であり、思い悩む相談者の心も少なからず軽くなったのではないだろうか。
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