聞け、“泡沫候補”と呼ばれる男の魂の叫びを! 闘う父親たちのエレジー『立候補』『選挙2』
#映画 #選挙 #パンドラ映画館
“観察映画”を謳っている想田監督だが、監督自身がカメラごと現実の中に呑み込まれてく。そして、呑み込まれながらも想田監督はポスターでは爽やかな笑顔を振りまく現職議員たちがカメラを睨むコワモテな一面を切り取る。このシーンもまた台本のないドキュメンタリーならではの醍醐味である。
想田 「『選挙2』は2011年4月に撮影したものですが、2012年12月の衆院選の結果を眺めながら編集へのインスピレーションを得るまで、ずっと編集できずにいたんです。今思えば、撮影時に目撃したことが、あまりにも異常な光景に感じられ、なかなか消化できなかったんでしょうね。原発事故直後の日本は、映画に例えるならゴジラが来襲してきたような状況だったはず。自分たちの暮らしている町に放射能が降り注いでいるわけで、映画ならみんな『キャーッ』と逃げ出すのが定番でしょう。でもボクが見た光景はゴジラがノッシノッシと歩いているのに、いつもと同じようにサラリーマンたちが通勤列車に乗り込み、主婦は買い物をし、子どもたちが公園で遊んでいる様子だった。そして、いつもと同じように選挙カーが走り、候補者たちが駅前で自分の名前を連呼しながら、通行人と握手している姿だった。そして、あれだけの事故の直後であるにも関わらず、原発問題はタブー視されて誰も争点にしない。そんな状況を山さんは『おかしい』と訴えていたわけです。今回の山さんの選挙活動は異色すぎて“泡沫候補”と言われても仕方ないものでしたが、山さんにはちゃんとした主張があった。だけど、ちゃんとした主張があったから、日本の社会では浮いてしまった。異常な社会の中で正しいことを言うと、異常な扱いをされてしまう。そういう類いのことが起きていたんじゃないでしょうか」
『立候補』と『選挙2』の両作品に共通するのは、どちらも“親子のドラマ”という点だ。『選挙2』のラスト、投票日の前日に山さんは想田監督へのサービスか本来のコスプレ好きな性格のためか、白い防護服にガスマスクというスタイルで街頭演説を駅前で行う。フードを被っているため顔はほとんど見えず、ノボリは風に煽られてよく読めない。通行人の多くはスルーしていく。最初は父親のコスプレ姿にはしゃいでいた息子の悠喜くんはすぐに飽きて、ひとりカンフーごっこに夢中だ。それでも山さんは懸命に訴える。「私に一票入れてくださいとは言いません。投票率が50%を下回っている現状では、正しい形で選ばれているとは言えません。選挙にだけは行ってください。そこから民主主義は始まるんです」。
子どもたちよ、父親が闘う姿をその目に焼き付けてほしい。かっこ悪くても、笑いものになっても、父親は決して逃げず、最後の最後まで闘い抜いたことをいつの日か思い出してほしい。お父さんは、いつか君が投じる一票のために今、こうして身を挺して闘っている。愛とは平和ではない。愛とは闘いであることをお父さんは君に伝えたい。
(文=長野辰次)
『立候補』
監督/藤岡利充 製作総指揮&撮影/木野内哲也 音楽/田戸達英、岩崎太整、佐藤ひろのすけ 出演/マック赤坂、羽柴誠三秀吉、外山恒一、高橋正明、中村勝、岸田修、櫻井武 配給/ポレポレ東中野、明るい立候補推進委員会 6月29日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開中 (c)2013word&sentence
<http://ritsukouho.com>
『選挙2』
監督・製作・撮影・編集/想田和弘 製作補佐/柏木規与子 配給/東風 7月6日(土)より渋谷イメージ・フォーラムほか全国順次公開 ※前作『選挙』も6月29日よりイメージ・フォーラムにて上映中 (c)2013 Laboratory X,Inc.
<http://senkyo2.com>
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事