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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.230

聞け、“泡沫候補”と呼ばれる男の魂の叫びを! 闘う父親たちのエレジー『立候補』『選挙2』

senkyo2_1.jpg前作『選挙』で選挙関係者にはすっかり有名になった山内和彦前川崎市議。1枚120円の手づくりポスターを張っていく。『選挙2』より。

 『立候補』を撮った藤岡監督が参考にしたのが、NYに拠点を置く想田和弘監督の観察映画第一弾『選挙』(07)だ。2005年の川崎市議会の補欠選挙の様子を映し出したもので、想田監督の大学時代の友人である“山さん”こと山内和彦が自民党公認の落下傘候補としてドブ板選挙を展開し、初当選を果たすまでをつぶさに記録している。日本の民主主義の実状を伝える秀作ドキュメンタリーとして世界各国で高く評価されると同時に、日本国内でも選挙関係者たちにとって選挙のノウハウが学べる貴重なテキストとして知られている。『選挙2』は同じく山さんを主人公にした続編なのだが、2011年4月に行われた統一地方選挙に急遽再出馬を決めた山さんを取り巻く状況は前作とは大きく変わった。

 前作は小泉自民党公認という大きな後ろ盾を得ての選挙だったが、今回の山さんは無所属での闘いなのだ。2011年4月の統一地方選は東日本大震災と福島原発事故後の初めての選挙だった。それなのに、選挙に臨むメジャー政党の候補者たちは原発問題についてまともに触れようとしない。原発を推進してきたのは自民党だったはず。原発事故に対応しているのは民主党ではないのか? 補欠選挙での穴埋め要員として用済み扱いされていた山さんは自民党と完全決別して、インディーズ候補として出馬することを決意する。ドブ板選を経験し、選挙に無駄な大金が掛かることを反省した山さんの2度目の選挙活動はとっても斬新。ガソリンを食う選挙カーは使用しない。選挙事務所も借りない。ボランティアスタッフとの打ち合わせはもっぱらファミレス。映画『選挙』の宣伝用のビジュアルを選挙ポスターに借用し、“脱原発”を中心に訴えたスローガンをポスターの隙間にびっちり書き記す。名前を連呼し、握手するだけの街頭活動も無意味なのでやらない。今回の選挙にかかった費用は、自作のポスター代とハガキの印刷代のわずかに8万4720円のみ。

 山さんが自民党ではなく、完全無所属での出馬となった他にも、いろんな面で『選挙』から『選挙2』は状況が変わった。妻・さゆりさんとの間に息子・悠喜くんが生まれた。そして大震災と原発事故が起きた。それらに加え、『選挙2』では被写体となっている人々がみんな前作と違ってカメラを意識するようになった。山さん夫婦に前作のような派手な夫婦喧嘩はもう期待できない。だが、山さん夫婦とは別なところでバトルが勃発する。山さんだけでなく、他の候補者たちも想田監督のカメラを充分に意識している。その中で最も過敏に反応を示したのが自民党所属の現職議員たちだ。『選挙』では同じ自民党である山さんにエールを送る立場だった浅野文直市議、山さんの選挙対策本部長を務めた持田文男神奈川県議が想田監督のカメラに対し不信感を示し、「撮影拒否」を通告してきたのだ。想田監督はそのときの状況をこう振り返る。

想田 「撮影拒否には驚きました。ボクは彼らに対してまったく敵対心を持っていなかったのですが、どうやら先方の支援者側から『選挙』に対するクレームがあったみたいですね。自分たちが展開するドブ板選挙を笑いものにされたと感じたのかもしれません。でも、選挙は税金が使われた公的な活動であり、拡声器で演説している候補者たちは公人なわけです。それを「撮るな」なんて発言が飛び出したことが意外でしたし、「撮るな」と言われてこちらも引き下がれなかった。選挙活動の様子を取材できないということは、民主主義の基盤である重要なプロセスが取材不可能だということ。それを容認することは、民主主義にとって自殺行為に等しいですよ」

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