嵐やAKBの歌は、なぜユニゾンばかり? ハーモニーを忘れたJ-POPに必要なモノ
#リアルサウンド
この状況を打破するには、ちゃんとした耳の肥えたファン(ユーザー)を今からでも育てなければいけない。例えば、小学校の音楽の授業において、声楽の先生とカラオケ店のお姉さんと、並んで歌ってもらい、プロと一般人の歌唱とのレベルの違いを耳で知る。プロの声量を機械で測り、数値で差を分からせる、というのもいい。このようにして、「腹式呼吸をマスターし、全身をアンプリファイアにして震わせて伸びやかな声を出す人がプロの歌手なのだ。そうじゃない人の歌は鼻歌にすぎない」と、きちんと教えたほうがいい。しかし実際の義務教育において、そんなことを教える先生は皆無です。リコーダーやピアニカを捨てろ。背筋を伸ばし、肺を広げて、腹から声を出せ! 若者よ! です(笑)。だからいまだに、声量がない、音程がとれない、音域がない、歌唱の基礎がない”歌手”がプロという名のもとに大勢いるんです。
また、ハーモニーができるグループも少ない。これも、外国から見たら大笑いの事態です。音楽の歴史を振り返ると、中世音楽よりも昔、教会音楽に、”1つのメロディにあわせてもう1つの音をつける”というハーモニーの前身がありました。そこから対位法や和声が生まれてくる。通奏低音とかね。一方、日本は雅楽で、単音ですよね。向こうはレンガ造りの礼拝堂があったから、神の厳かさを出すための響きとしてハーモニーが適していたのでしょう。日本は、風の音やせせらぎなど自然の音がバックグラウンドにあり、「f分の1のゆらぎ」の中で生きてきたので、ハーモニーはさほど必要とされず、単音で成立してきたのでしょう。
この単音文化が、江戸時代から明治を経て、レコードの輸入はありましたが、ともかく1945年まで続きます。戦後初めて、イタリア歌劇団とベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が来日し、「生」で本物のハーモニーを聞いた日本人は、「音楽とはこういうものなのだ」と圧倒されるわけです。ハーモニーが本格的に重んじられるのはそこから。流行歌のジャンルでもダークダックス、ボニー・ジャックスなどの歌唱グループや、女性デュオのザ・ピーナッツが一応ハーモニーを取り入れます。しかし、冒頭で言った肝心の1970年にすっかり抜け落ち、忘れ去られます。70年代になってアイドル歌謡が広まった際に、ハーモニーの要素がなぜか見事に欠落してしまった。そのまま60年……。だから現代のアイドルは、AKB48にしても嵐にしても、みんなユニゾンですよね。外国から見れば「それは歌じゃない」んです。
ある番組のドキュメンタリーで、当時人気絶頂のアイドルが、NYの有名ボイストレーナーのところへ行きました。2~3小節歌ったところで、ボイトレの先生に「あなた、日本のトップシンガーって、ほんと? 発声の基本すらできていませんよ」と大笑いされたのですが、やはり、そうなんだろうなあ、と思います。対位法と和声、とまでは言わないまでも、ハーモニーとはこういうものだ、声楽の基礎とはこういうものだと、小学1年のときに学校で教えないと間に合わないところまで来てしまいました。
上記で申し上げたような形で、今からファン(ユーザー)を育てるとしましょう。今の小学生たちが20歳前後になるころ、すなわち2020年代、そういう教育を受けてきた世代が初めてアーティストとして楽曲を制作するようになります。彼らは発声ができて、音程も確かで、声量も豊かで、和音も大切にして曲作りをするでしょう。平成10年代生まれがJ-POPを救う、と『誰がJ-POPを救えるか』で書いたのは、そういう意味です。かなりその部分だけ、曲解されてネットでは叩かれましたが(笑)。
そのときこそ、初めて、J-POPは再生するのではないでしょうか。
(第4回目に続く)
■麻生香太郎
大阪市生まれ。評論家、作詞家。『日経エンタテインメント!』スーパーバイザー。東大文学部在学中から、森進一や小林ルミ子、野口五郎、小林幸子、TM NETWORKなどに作品を提供。『日経エンタテインメント!』創刊メンバーとなり、以降はエンタテインメントジャーナリストに転身し、音楽・映画・演劇・テレビを横断的にウオッチしている。著書に『誰がJ-POPを救えるか マスコミが語れない業界盛衰期』(朝日新聞出版)など。Twitter
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