事件は有名ハンバーガー店で起きた! 従順さが招いた犯罪『コンプライアンス 服従の心理』
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1961年に行なわれた「ミルグラム実験」は過去のデータではないことが2009年のフランスで改めて実証された。同様の実験をフランスのテレビ局がクイズ番組という設定に置き換えて再現したのだ。クイズ番組のパイロット版の収録という名目で集められた参加者たちは「出題者」と「回答者」に別れて、クイズに答えた。クイズに正解できなかった「回答者」は罰ゲームとして電気ショックが与えられた。次第に電圧が上がり、「回答者」の顔が歪む。「出題者」は不安に駆られるが、番組の司会者が「途中でやめてもらっては困ります」「責任は私たちが負います」と呼び掛けると「出題者」はそのままクイズを続けた。最大電圧まで続けた参加者は「ミルグラム実験」の62.5%を大きく上回る81%に達した。戦時下でもなく、科学の実験でもなく、クイズ番組の司会者の命令でも、多くの人たちが簡単にアイヒマンになってしまった。
電話の声によってベッキーはさんざん弄ばれた挙げ句、この電話は超悪質なイタズラであることが3時間以上経過してようやく判明した。このとき、マクドナルドから笑顔が消えた。警察の調べにより、警察マニアの男が容疑者として浮かび上がった。男のアパートからは大量のテレフォンカードが見つかった。さらにイタズラ電話は今回だけでなく、10年近くにわたって米国各地で70件以上も同様の電話があったことも明るみになった。イタズラ電話が頻繁に起きていることを従業員に伝えなかった管理不足、危機対策の不備を裁判で問われ、マクドナルド社は被害女性に610万ドルを支払うことを命じられた。女性店長は企業ポリシーに反したこと、身体検査を指揮した事実から同社を解雇された。店長の婚約者は5年間の実刑判決を受けた。そして容疑者の男は証拠不十分で釈放された。
イスラエルの裁判で、戦争犯罪と人道に対する罪を問われ、死刑を宣告されたアドルフ・アイヒマンはこう言い残したといわれる。「私の罪は従順だったということです」。電話詐欺を楽しんだ犯人にとって、明るい笑顔と従順さをモットーとする巨大組織はあまりにも絶好のカモだった。
(文=長野辰次)
『コンプライアンス 服従の心理』
監督・脚本・製作/クレイグ・ゾベル 出演/アン・ダウト、ドリーマ・ウォーカー、パット・ヒーリー、ビル・キャンプ 配給/アット エンタテインメント R15 6月29日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C) 2012 Bad Cop Bad Cop Film Productions, LLC
<http://fukuju-shinri.com>
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