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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.228

“運命の女”との再会、そして“神”との対話……。さらば自分探しの旅『キス我慢選手権 THE MOVIE』

kiss_gaman03.jpg省吾、信太郎(岩井秀人)、みひろたちはテロリスト組織のアジトへと潜入する。想像を絶するクライマックスが省吾を待ち構えていた。

 葵つかさ、紗倉まなのキス攻撃には何とか耐えたものの、劇団ひとりが抗いがたい“運命の美女”が登場する。「キス我慢選手権」の第1回から劇団ひとりと名場面の数々を演じ、視聴者を釘付けにしてきた切り札・みひろが投入される。『ボーン・アイデンティティー』(02)のジェイソン・ボーンのように自分の記憶を持たない劇団ひとりこと省吾だが、みひろに対しては特別な感情が溢れ出てくるのを抑えることができない。ハードなAV業界で長年に渡って売れっ子として活躍したみひろはカメラの長回しにバツグンに強い。その場その場で自分に与えられた役割を的確に理解し、求められるキャラクターと素の自分とを巧みに融合していく。さらにカメラが回り続ける限り、感情の流れを途切れさせることのない徹底したプロ意識の持ち主だ。そんなみひろとアドリブの天才・劇団ひとりが邂逅したからこそ、「キス我慢選手権」は番組スタッフの想像を遥かに上回る人気企画へとスパークしたのだ。自分の哀しい過去を語るみひろの涙を、チョウ・ユンファのような包容力のある笑顔で受け止める劇団ひとり。キスしてやれよ、劇団ひとり。キスをすれば映画が終わってしまうことを承知で、客席にいる我々はスクリーンに向かって呟く。

 思いがけず世界を滅亡の危機から救うという使命を託されてしまった男の激動の24時間をアドリブで演じ続けた劇団ひとり。すでに制限時間の24時間は過ぎ、本人だけでなく共演者もスタッフも未知の領域へと突入していく。『トゥルーマン・ショー』のジム・キャリーがそうだったように、劇団ひとりも物語の終わりに神さまと対峙することになる。24時間を越える冒険を体験し、劇団ひとりは自分が何者であるかを改めて思い知る。どんなシチュエーションに放り込まれようとも、カメラが回る限り、視聴者を、観客を楽しませ続けるエンターテイナーであることを。そして共演者やスタッフがいるからこそ、自分が存在できるということを。自分なんてものはどこにもなく、他者との関係性においてのみ自己が存在することが壮大な実験の結果、明らかにされた。長らく続いた自分探しの旅ブームはここに完結した。
(文=長野辰次)

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『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』
監督・脚本/佐久間宣行 脚本/オークラ 音楽/岩崎太整 主題歌/サンボマスター 出演/川島省吾(劇団ひとり)、おぎやはぎ、バナナマン、みひろ、岩井秀人、京本政樹、葵つかさ、紗倉まな、マキタスポーツ、窪田正孝、オクイシュージ、駒木根隆介、バカリズム、東京03、松丸友紀、武蔵、やべきょうすけ、ミッキー・カーチス、斎藤工、渡辺いっけい、竹内力 配給/東宝映像事業部 PG12 6月28日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー公開 (c)2013「キス我慢選手権 THE MOVIE」製作委員会 
<http://www.god-tongue.com>

◆『パンドラ映画館』過去記事はこちらから

最終更新:2013/06/20 18:00
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