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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.228

“運命の女”との再会、そして“神”との対話……。さらば自分探しの旅『キス我慢選手権 THE MOVIE』

kiss_gaman02.jpg今回の省吾は元凄腕のスナイパー“砂漠の死神”という設定。台本を渡されていないにも関わらず、派手な爆破シーンが襲い掛かる。

 制限時間内はカメラを止めることなくアドリブ演技を続けるという劇団ひとりのプライドの前に立ち塞がるのは、ピッチピチのセクシー美女たち。人気AV女優の葵つかさはいきなり露天風呂でフルヌードでの登場となる。劇場版ならではのサービスショットが、いつもの深夜番組とは違うことを強く感じさせる。ロケ車からふいに温泉郷に降ろされた劇団ひとりこと川島省吾は葵つかさの挨拶代わりのキスをかわしながら、自分は製薬会社の令嬢・つかさと愛の逃避行中の身であることを知る。どうやら省吾はかつて「砂漠の死神」と呼ばれた凄腕の暗殺者だったらしい。さらにはロリータ系のルックスで人気の紗倉まなは生き別れとなっていた妹として登場。再会を喜ぶまなは兄・省吾にキスをおねだりする。すぐ目の前にプルプルした甘美な唇が待っている。美女とエッチしたい。オスとしてのどうしようもない本能にもがき苦しむ省吾。プライドは社会的存在意義と言い換えることができる。動物としての本能と芸人としての社会的存在意義とがひとりの男の中で激しく正面衝突する。

 省吾を悩ませるのは美女だけではない。「砂漠の死神」を追って、警察、テロリスト組織、そしてゾンビたちが押し寄せる。台本を渡されていない省吾は考える暇もなく、次々とその場その場を面白いセリフと即興芝居で乗り切らなくてはならない。ウォータースライドに流されていくように大きな物語のうねりに呑み込まれていく省吾。運命に身を委ね、矢継ぎ早に襲い掛かるトラブルを機転でかわしていくその様子は、ひとりの男の破天荒な人生をぎゅぎゅぎゅっ~と凝縮したかのようだ。

 劇団ひとりにとって『キス我慢選手権THE MOVIE』は、ジム・キャリー主演の『トゥルーマン・ショー』(98)を脚本なし、リハーサルなしの一発撮りでやらされているようなものだ。一方、共演陣は省吾の幼なじみの親友・信太郎に劇団ハイバイおよび平田オリザ率いる青年団演出部に所属する岩井秀人、省吾を追う刑事役に劇団新感線出身のベテラン・渡辺いっけい、さらに『苦役列車』(12)や『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)での好演ぶりが光るミュージシャン兼芸人・マキタスポーツ、入江悠監督が1シーン1カットの長回しで撮った『SRサイタマノラッパー』三部作に主演した駒木根隆介らアドリブに対応できる実力派を揃えた。カメラは20台用意した上で、劇団ひとりの代役と他のキャスト陣でリハーサルを重ね、「劇団ひとりなら、こーゆーリアクションするだろう」と様々なシミュレーションを組んだそうだ。ちなみに脚本は「(劇団ひとり:何かかっこいいことを言うはず)」と劇団ひとりの部分だけ空白にしてあったらしい。深夜バラエティー発の安直な企画に見せて、その実はかなりの手間ひまを掛けた壮大な実験映画なのだ。

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