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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.227

男と女を結びつけているのは愛情か肉体か? 真木よう子主演の官能ドラマ『さよなら渓谷』

sayonarakeikoku02.jpg『ベロニカは死ぬことにした』(06)以来の単独主演映画となった真木よう子。「簡単には演じられない役。台本を渡された時点で覚悟した」と話す。

 案の定、警察は俊介と立花里美は肉体関係があったという情報を得て、俊介を事情聴取のために連行していく。警察にそのことを通報したのは、俊介の妻かなこだった。この夫婦はどこかおかしい。渡辺は俊介の過去を調べ、俊介が大学時代は野球部のエースだったこと、証券会社に勤めていたエリートサラリーマンだったことを知る。俊介を引き立ててくれた先輩社員の妹との婚約も決まっていたらしい。約束されていた将来を全部棄てて、俊介はかなこと郊外にある簡素な市営住宅で暮らしていたのだ。それほどまでに俊介とかなこは深く愛し合っているのか。体の相性が抜群にいいのか。では、かなこが俊介を警察に売ったのは何故か? 妻(鶴田真由)との生活がしっくり行っていない渡辺にとって、俊介とかなこの夫婦関係は疑問だらけだ。やがて、俊介は15年前にある事件を起こし、俊介とかなこは口外できない秘密を共有する特殊な関係であることが浮かび上がっていく。

 本作を撮ったのは大森立嗣監督。『ゲルマニウムの夜』(05)で監督デビューして以降、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)『まほろ駅前多田便利軒』(11)と社会の底辺で暮らす人々を一貫して撮り続けてきた。今年3月には秋葉原無差別殺傷事件を題材にした『ぼっちゃん』が公開されたばかりだ。男臭い世界を描き続けてきた大森監督にとって初めてのヒロインものが本作であり、ヒロインを務めたのは芸能界でもっとも“男気”溢れる女優・真木よう子。そして俊介役は『赤目四十八瀧心中未遂』(03)『キャタピラー』(10)で寺島しのぶの相手役を演じた大西信満。大森監督、真木よう子、大西信満の3人ががっちりスクラムを組む形で物語が進んでいく。

 現在の日本映画界はテレビ放映を前提にしたテレビ局主導映画が主流となってしまい、人間の暗部にまで踏み込んだ作品は企画されにくい状況にある。だが、大森監督&真木&大西によるスクラムは、人間の心の奥の襞にまでずんずんと分け入って進んでいく。まるで愛情と憎しみと官能の果てに何が待っているのかを確かめようとしているかのようだ。蒸した部屋の中で抱き合った俊介とかなこは汗だくまみれで、2人の肉体は溶け合ってひとつのバターになってしまいそうなほど。慈しみと憎しみとが男と女の間をギッコンバッコンしていく。

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