来日16年、全盲のスーダン人が“見た”日本とは──『わが盲想』(後編)
#海外 #本
――アブディンさんはブラインドサッカーをやっているそうですが、スポーツは好きなんですか?
アブ スポーツはいいですね。憧れますよ。ラジオで野球中継を聞くのもいいけど、やっぱり汗を流すほうがいいでしょ。だけど最近はあんまり運動してないから、ブラインドサッカーの試合では動きが悪いね。
知り合いのライターの人なんかは、僕の動きがあまりにも鈍いから「アブディン、文章がうまいのはわかったから、ここでもちゃんとうまいところを見せてくれよ!」って言ってくるぐらい(笑)。
(編集部注:ブラインドサッカーは視覚障害者サッカーの通称であり、「ブラサカ」と略される。メンバーは1チーム5人で視覚障害者と健常者<アイマスク着用>が同じフィールドでプレーすることができる数少ないスポーツであり、ヨーロッパをはじめとする世界各国で競技人口が増えているワールドスポーツである)
――スポーツに限らず私生活を充実させているアブディンさんですが、ご結婚されているんですよね。独身のときと比べて、生活は変わりましたか?
アブ やっぱり今のほうがいいですよ。独身のときは外で友達と会ったりしても家に帰ったら一人でしょ。5人きょうだいで育ったので、孤独はしんどいですね。貧乏よりも会話がないのが一番精神的にくるんですよ。だから筑波で学生していたときには、酒盛りに参加したりもしました(笑)。
――イスラム教徒のアブディンさんにとっては大胆な発言ですが、お酒はもう飲んでないんですか?
アブ 飲んでないです。2008年5月をもちまして。結婚の条件に「お酒を飲まない」っていうのがあったんですが、その前にやめていてよかったなと(編集部注:アブディン氏が結婚したのは10年1月。お酒をやめた理由を知りたい方は『わが盲想』で確認してください)。でも奥さんには、昔飲んでいたことがバレていたんですよ。乾杯している写真を見つけたみたいで。とりあえず「あれはノンアルコールビールです」と言ったら「いやいや、ノンアルコールビールは缶の色が違う」と言われちゃって(笑)。
「あなたの大事な思い出だから写真は捨てないけど、子どもが大きくなったら困るでしょ」と言われて、できた奥さんだなと思いました。今でもノンアルコールビールは飲んでます。お肉とかカロリーの高い食事と合うんですよ(笑)。
■結婚と東日本大震災
――結婚するまでのエピソードが素敵ですよね。スーダンに住んでいた奥さんと、信じられないことに、電話でのコミュニケーションだけで結婚の約束をする。それもわずかな期間だったから、著作の中で「スピード違反婚」と書いていますけど、なんの障害もなく速攻で結婚が決まったんですか?
アブ 今でも本当に不思議なんです。スピード違反ですよ。トントン拍子どころじゃない。なにより本当にいい奥さんで、僕の前にもいろいろな結婚話があったそうなんです。彼女はイスラム教徒で信仰心が強いのですが、結婚が決まりそうになると耳元で「この人は違うよ」という声が聞こえて、急に結婚する気がなくなったと言っていました。
あるときお母さんに「あなたが金の家を建ててくれたとしても、結婚しなかったら意味がない」とすごく怒られたらしくて、彼女はカチンときて「じゃあ次は物乞いが来たとしても家に連れてくる」と宣言したら、物乞いをはるかに超える悪者が来た。それが僕だったんですよ(笑)。
――スーダンの結婚事情って、どんな感じなんですか? みんな早くに結婚するんですか?
アブ 人それぞれですね。女の人は25歳くらいで結婚する人が多いですが、僕の妻は9人きょうだいの長女で、お父さんの商売もうまくいってなかったので一家を支えなければならず、結婚どころじゃなかった。働いている人はやっぱり結婚が遅くなりますし、田舎と都会の違いも大きいですね。田舎は10代で結婚しますから。
――離婚はどうですか?
アブ 最近増えています。イスラム教って簡単に離婚できないイメージがあるかもしれませんが、確かに簡単ではないけど、離婚はできるんです。カトリックじゃないから。昔は親戚同士で結婚することが多く、離婚すると大家族が割れてしまう危険があったので、自分の一存では決められなかった。最近では恋愛結婚が増えたので、離婚も増えています。あと女性の自己主張が強くなったというのもありますね。
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