来日16年、全盲のスーダン人が“見た”日本とは──『わが盲想』(中編)
#海外 #本
アブ 本当だよ。もちろん失敗はあるけど(笑)。基本的には声と、あとは握手した感覚。声だけの場合は、音声データをもとに、輪郭を再現するわけ。当たる率が高いかどうかの実際のところは、まあ自称なので、よそから見れば全然違うかもしれないけど、僕が美人だと思えばいい。でも付き合う場合は「あいつは見えないから騙されたんだ」と思われるのは嫌なので、そこはこだわるね。
――相手の人となりは、外観や輪郭や声の高さなどの情報をもとに、会話しながら徐々に判断していくんですか?
アブ もちろん第一印象はあるよね。外見で判断してはいけないと思っても、相手が一言発する前に、とりあえず印象はインプットされるでしょ。話していく過程でその印象が変わることも、もちろんあったりするけど。
――健常者はイケメンかどうかとか、美人かどうかで判断するわけですけど、アブディンさんの場合は、いい声かどうかで判断する。
アブ 自分の耳が雑音と認識しない、心地いい声とかね。でもそれだけじゃないですよ。会話の内容とか話が合うかどうかとか。入り口は必要だから。
――著書の中で「あ、いい声だ友達になりたい」って書かれていますが、イケメンとか美人と同じ意味合いでの「いい声」っていうのはあるんですか?
アブ 目が見えていても、いい声はあるでしょ? 20代前半の時は甲高い声が好きだったんだけど、どんどん低い声のほうがセクシーに聞こえてきて……。
――アブディンさんって、結構スケベですよね(笑)。
アブ ムッツリじゃないから、いいじゃない! 男は基本的にスケベですよ(笑)。
――さわやかスケベな感じで織り交ぜてくる、オヤジギャグの評判はどうなんですか?
アブ まあやっぱり女性は引くよね(笑)。でもオヤジギャグって、言葉遊びだから楽しいんだよ。自分でも発見があるし。言おうと思って言っているんじゃなくて、スッと啓示が降りる。神の啓示じゃないけど、ひらめくんだよね。
流れで自然に出てくるのが一番いい。版元のポプラ社で宣伝部の人たちに挨拶をしたとき、「こんにちは、金沢です」と言われて「福井です」と考えずに返しちゃった。これはくしゃみと一緒ですよ。本人はスッキリするけど、周りには変な菌をいっぱい飛ばしているから。自分はオヤジギャグを言ってスッキリするけど、周りはストレスを感じているかもしれない。
――聴覚以外の感覚って、どうなんですか? 著書の中で「肌触りのいい本」とか「肌触りのいい教科書」という言葉を使っていますよね。
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