日本で優秀なスパイが育たない理由とは? 安倍内閣の下で諜報機関が台頭!? 世界と日本の最新スパイ事情レポート
#政治 #ドラマ #アメリカ
――北朝鮮によるミサイル危機をはじめ、緊迫化するアジア情勢。そんな中であらためて露呈したのが、我が国・日本の情報力のお粗末さだった。情報を扱うプロであるスパイをテーマに据え、アメリカで話題となっているテレビドラマの内容とともに、各国のスパイ最新事情と日本の諜報機関の今を追った。
今年4月以降、国内では北朝鮮の情勢をめぐって緊張状態が続いている。国土交通省からは操作ミスなども含め、複数回にわたって北朝鮮からのミサイル発射についての誤報が流れるなど、かなりの混乱が見られ、メディアなどでもさまざまな憶測や見解が出されている状態だ。この緊迫した国際情勢の中で、改めて専門家から警鐘が鳴らされているのが「日本の諜報力の弱さ」だ。
諜報機関というと日本ではあまり馴染みがないが、海外ではその存在感や果たす役割は大きい。諜報機関などの専門誌である「ワールド・インテリジェンス」(ジャパン・ミリタリー・レビュー)編集長などを歴任した軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、「世界を見ると、諜報活動に力を入れていない国はない」と語る。
「たとえばアメリカの場合だと、海外へ行っていわゆる諜報活動に当たるのがCIA。イギリスならMI6、ロシアならSVR(旧KGB)、中国などアジア圏の国々も強い諜報組織を持っています。こうした各国政府の下で諜報活動に当たる人間は、大きく2タイプに分かれています。公務員としての正式な肩書を持つ”オフィシャルカバー”と呼ばれる人たちは、大使館の外交官などとして各国に潜入していくケースが多い。日本に潜入するのであれば、駐日軍人として入ってくるのが一番楽でしょう。これに対して、正式な政府職員としての肩書を与えられない”ノンオフィシャルカバー”と呼ばれる人たちは、民間企業の一員などとして海外に赴きます。オフィシャルカバーは正式な政府職員であるため、外交特権などで守られていますが、ノンオフィシャルカバーの場合、万一潜入した国で捕まった場合は即各国の法律で裁かれることになる。スパイ行為は多くの国で非常に罪が重く、極刑を科すのが普通なので、リスクが大きい仕事です」(黒井氏)
想像通り危険なスパイ活動だが、現在の主流は潜入調査というよりも内通者づくりだという。「自分が潜入していくよりも、もともと内部にいた人を寝返らせて情報を引き出すほうが効率がいい。だから、”アセット(資産)”と呼ばれる協力者を各国に作っていくのが現在一番多い手法です」(同)
そんな中、黒井氏が危惧するのが日本の諜報力だ。氏によれば日本の諜報力は「第二次世界大戦後から、伝統的に弱い」のだという。
「内閣官房の内閣情報調査室や外務省の国際情報統括官組織、法務省の公安調査庁、防衛省の情報本部など、日本にもいわゆる情報活動を行う組織はいくつかありますが、現状で強いのは警察です。警察はアメリカのFBIに当たる業務も兼ねており、外国のスパイや危険な組織を監視するといった防諜を得意としています。しかし、CIAに相当する専門の対外諜報機関が存在せず、海外の独自情報はなかなか国内に入ってこない。イラク戦争のときに自衛隊が派遣されましたが、現地の情報がほとんどないため、オランダ軍やイギリス軍から情報をもらって活動していた、なんて話もあるくらいです。また、情報漏洩に対する意識も低く、内部情報を漏らしてしまっても、それに対する罰則規定も各国に比べて格段に甘い。そもそも日本では、政治家と記者がべったりで、本来秘密であるべき会議の内容までマスコミに筒抜けだったりする。最近ではさらにハッカーなどによるサイバー活動も盛んになっていますが、この分野でも日本は弱い。今年初頭にPCの遠隔操作事件が取り沙汰された通り、ネット関連はザル状態で非常に危険といえます」(同)
日本の諜報能力が弱いのは、歴史と風土の影響が大きいと、黒井氏は指摘する。戦前の1938年には、世界初のスパイ養成学校・陸軍中野学校が設立され、海外での秘密工作なども盛んに行われていたが、戦後、GHQの管理下で旧軍が解体されるとそうしたノウハウも失われてしまった。
「軍が解体されたといっても、51年のサンフランシスコ講和条約での独立後は、諜報組織を作ることは可能だった。しかし、日本では諜報活動に対して戦前の憲兵隊などの検閲や思想弾圧といったイメージが強く、左翼からの反発が強かったのです。そのため、なかなか強力な諜報組織を作ることができなかった。加えて、戦争中であれば諜報活動は絶対に必要でしたが、戦後はその必然性もなくなってしまった。普通、諜報部門はどこの国でもエリート中のエリートが就くもの。しかし、日本では各組織の情報部門は傍流扱いで、エリートコースではないということからもそうした意識がうかがえます」(同)
こうした状況下で、黒井氏が日本の諜報活動強化に期待を寄せているのが、日本版NSC(国家安全保障会議)の発足だ。
「NSCは各省庁、情報機関からの情報を集めて分析し、戦略化するための組織で、第一次安倍政権時代から現在まで安倍内閣が創設に向けて動いています。アメリカでも同様の組織は400人程度の人員を配備していますが、日本版はいきなり200人規模で創設する構想を持っているといわれており、かなりの気合を感じます。日本の諜報能力を立て直すきっかけになってほしいですね」(同)
国際的な緊迫感が高まっている現在、より速くより正確な情報を手に入れられるかどうかは、一国の運命を左右する問題だ。アメリカでは、下記で紹介している『HOMELAND/ホームランド』のように、諜報をめぐる争いがエンタメとして人気を博すなど、その注目度は高い。半世紀以上にわたって後れを取ってきた日本の諜報能力を立て直すことはできるのか? 日本における諜報機関の今後の動向に一層注視していく必要があるだろう。
(取材・文/小林 聖)
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)
1963年、福島県生まれ。「軍事研究」記者、「ワールド・インテリジェンス」(共にジャパン・ミリタリー・レビュー社)編集長などを歴任。現在はフリーの軍事ジャーナリストとして活躍中。『ビンラディン抹殺指令』(洋泉社新書y )、『日本の情報機関』(講談社)など著書多数。
『24─TWENTY FOUR─』の製作陣が送るスパイサスペンスが日本上陸!
HOMELAND/ホームランド
寝返り工作が激しいスパイの世界では、誰がどこのスパイとなっているかを見極めるのも重要だ。国防総省管理下のCTU(架空の政府機関)所属の捜査官とテロ組織との戦いを描いた『24-TWENTY FOUR-』シリーズの製作陣が手がけた新たなドラマ『HOMELAND/ホームランド』は、そんな寝返り工作疑惑をめぐるサスペンス。物語は、イラクで消息不明になっていたアメリカ海兵隊の軍曹が、8年にわたるアルカイダでの捕虜生活を経て、祖国に帰ってくるところから始まる。“英雄”として迎えられる軍曹ニコラス・ブロディだが、CIAエージェントのキャリー・マティソンは、ニコラスが洗脳され、アルカイダに寝返ったのではないかという疑惑を抱く。果たして彼は本当に“英雄”なのか? それとも……複雑な心理と息をもつかせぬ展開のスリリングなスパイドラマになっている。
プロデューサー:ハワード・ゴードン
出演:ダミアン・ルイス、クレア・デインズほか
発売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社
価格:ブルーレイBOX 3枚組 1万2600円 DVD BOX1 2枚組 3360円 DVD BOX2 4枚組 5040円 DVD vol.1 1490円(すべて税込)
発売日:5月31日(レンタル開始:6月5日)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事