今、情熱大陸より熱いのは映画大国インドだ! 青春“ナマステ”コメディ『きっと、うまくいく』
#映画 #パンドラ映画館
運命の相手と出会ったときは、風がなびき、月が大きく輝くと信じている。
松岡「1990年代以降、インドは急激な経済成長を果たし、都市生活者のライフスタイルは大きく変化しました。でも富裕層が増えた一方、社会格差が大きくなったという側面があるんです。かつてインドではカースト制度が大きな問題となっていましたが、今は貧富の差が新しい差別として深刻な問題になっています。そのため裕福ではない家庭の学生は、『いい大学に入って、いい企業に就職してほしい』という親からの期待が非常に大きく、そのことをプレッシャーに感じている学生が少なくないんです。近年のインドでは、若者の自殺の増加が社会問題になっています」
“カースト制度”をめぐる問題も大学で巻き起こったそうだ。
松岡「1950年に憲法でカースト差別が禁止され、都市部ではカーストが表面化することは少なくなりましたが、今でも職業などにカースト制度の名残があるのは確かです。教育を受ける機会に恵まれなかったカースト下位の人たちを大学や役所で受け入れる特別枠を設けるよう政府が決めたときは、これに抗議するカースト上位の大学生たちの自殺が相次ぎ、大変な騒ぎになりました。自分たちは懸命に受験勉強をして大学に入ったのに、成績が悪くても入学や就職ができる制度が導入されることに抵抗を示したわけです。また、カースト下位であることをカミングアウトしなくては特別枠に入れないことから“逆差別”との批判も起きました」
IT化が進み、都市生活者はすっかり洗練されたライフスタイルを享受するようになったが、自殺などの事件をきっかけに社会の歪みに溜まっていた膿が一気にドロッと噴き出すようだ。
また、松岡さんによると、動物好きなファルハーンに大学卒業後はエンジニアになることを厳命する父親がいる一家はイスラム教徒、ビンボーでいつも神様に頼ってばかりいるラージューの一家はヒンドゥー教徒という設定だそうだ。イスラム教徒とヒンドゥー教徒の間では度々宗教抗争が起きているが、『きっと、うまくいく』ではランチョーを介してファルハーンとラージューは無二の親友となっていく。ここらへんも、インド人にはウルッとくる展開らしい。コメディというスタイルの中で現在のインド社会が抱える問題点を巧みに料理しているところが、従来の勧善懲悪ものが中心だったインド映画のパターンとは異なる点だろう。
本作はインド国内で歴代興収第1位の大ヒットになっただけでなく、世界40カ国ですでに公開され、好成績を収めた。インドの3バカが心の中で感じている「有名校に合格して、有名企業に勤めることが、本当の幸せなの?」という疑問は、世界じゅうの若者たちが感じている疑問でもある。そして、『きっと、うまくいく』はその答えを探しにいく物語でもある。大学を出て、それぞれの道を歩み出した伝説の3バカが再び一緒になったとき、その回答がようやく見つかる。それはランチョーひとりでは正解を導くことができなかった生きた方程式だった。
(文=長野辰次)
『きっと、うまくいく』
監督/ラージクマール・ヒラニ 字幕/松岡環 字幕監修/いとうせいこう
出演/アーミル・カーン、カリーナ・カブール、R・マーダヴァン、シャルマン・ジョーシー、ボーマン・イラニ、オーミ・ヴァイディヤ
配給/日活 5月18日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開 <http://bollywood-4.com>
(c)Vinod Chopra Films Pvt Ltd 2009. All rights reserved
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事