『考える練習』発刊記念インタビュー 小説家・保坂和志が語る「文学とお金、そして革命」
#インタビュー
保坂 ひとつはNGOみたいなものだよね。政府とは別の集団を作ればいいわけでしょ? いろいろ考えたけどやっぱり年金払うっていう人がいてもいいと思うし、一方で年金は払わないという人がいてもいいと思うけど、でも払わない代わりにほかの何かはしないとね。困ってる人に対して何かをするというのは、自分を救うことでもあるんだよね。いま、困ってる人を助けるというのは別のシステムを作るということだから、結局、将来的に自分を救うことにもなるんだよ。だから蜘蛛の糸みたいに、自分ひとりが助かりたい、という発想をする人はポシャるよね。
年金が破綻するというのは、みんなが年金にお金を入れないからで、だとしたら国の働きを小さくして、他のところにお金を入れればいいんでさ。そのための仕組みを作っていけばいいんだよね。
少子化の問題も、ひとりの労働者が何人もの老人を支えなきゃいけなくなるというけど、昔はひとりで奥さんと子ども、自分以外を何人も養っていたんで、構造は同じことなんだ。本当はただたんに賃金が安くなったというだけで、問題をすり替えてるんだよ。
そもそも労働人口が減ることが問題なんだとしたら、移民を入れればいいんだよ。でも、移民受け入れの話なんてぜんぜん出てこなくてさ。本当は労働する場所がないんだよね。それなのに、労働場所もないのに少子化もへったくれもないじゃない! なんて話を僕がしても空しいね。ウソっぽいよね(笑)。
川又(編集) お金がある人はない人にあげればいいという考えもありますけど、いまの日本はそういう社会ではないですよね。お金を持っている人がひとりで抱え込んでるのはおかしいと思うんですが……。
保坂 たしかにその通り。おかしいと思う。タイ式ボクシングを習いにタイへ行ったら、タイが大好きになっちゃった人が書いた本があるんだけど、タイでは午後3時頃に仕事を終えて屋台で飲み食いを始めるんだって。で、その屋台ではお金のある人が全員をおごる。そして屋台のネタがなくなると、屋台のオヤジも店を閉めて、隣の屋台で飲み食いを始める。
川又(編集) なぜ日本はそういう社会にならないんですか?
保坂 ねえ。でも、なぜならないかと考えるより、自分で実践していったほうがいいと思うよ。
川又(編集) 個人的な話をさせていただくと、その実践として、僕は会社に行かずに生計を立てています。家賃も払いたくないので、友達のマンガ家夫婦の家へ転がり込んで、衣・食・住のうち食事と住居はその友人夫婦にお世話になっているんです。いわゆる、たかりってやつですね。
保坂 ははは(笑)。
川又(編集) そのことをまわりに話すと、それはおかしいって言われるんです。でも、僕と居候先の友人夫婦は何もおかしいとは思っていない。もちろんいまの社会からすればオルタナティブな生活のあり方なのかもしれませんが、もっとそういう暮らしをする人が増えればいいなと思います。
保坂 猫の暮らしと一緒だよね。つまり、川又さんは居候先の夫婦に対して、そこにいてもいいような、何かをしているわけなんだよ。僕もあなたが面白いと感じたからこの取材を受けた。僕のホームページを運営してる高瀬がぶんという人も一度も定職についたことがないんだけど、うちの奥さんなんかは、昔、大きい家には高瀬さんのような人が居たというんだよ。書生とか居候といわれながら。
高瀬さんも定職につかずに生きてこれたということは、存在自体がキュートなわけだよ。僕のホームページに来た人たちは何もしていない高瀬さんに憧れて、彼の家に遊びに行くんだよ。それで会うとたちまち気に入ってしまうという。
でもそれでいいんだよ。働くのがイヤな人とか長続きしない人でも、どこかキュートなところさえあれば、猫のように居候暮らしができるわけで。それでやってこれているんだから、それでいいんじゃないかな。
(構成=天川智也)
●保坂和志(ほさか・かずし)
1956年、山梨県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。93年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞、平林たい子文学賞を受賞。そのほか、『プレーンソング』『カンバセイション・ピース』『カフカ式練習帳』など著書多数。
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