美しさを求めるあまり“怪物”と化した哀しい女『モンスター』の高岡早紀が見せた女の情念!
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男たちにいくら殴られ、辱めを受けても、手術費を稼ぐためなら平気だった。
無敵の整形サイボーグとなった和子だが、いくつかの弱点があった。すべての歯を抜いて、アゴを細くしたために食事がほとんど摂れなくなってしまった。性風俗で体を酷使し、避妊剤や性病対策の抗生物質を大量に飲み続けたことで内臓が疲弊していた。そして子どもを産むことができない。子どもを産めば、苦労して手に入れた自分の容姿とは似ても似つかぬ我が子と対面することになるからだ。女としての幸せを享受できる時間があまり長くは残されていないことを悟った和子は故郷へと向かう。醜い自分を追い払ったトラウマだらけの町へと。自分が愛した唯一の男性にもう一度だけ逢うために。
整形手術によって“美貌”という武器を手に入れ、人生の勝利者となっていく和子。沢尻エリカ主演の『ヘルタースケルター』(12)と同じ題材を扱っているが、沢尻演じるヒロイン・りりこが芸能界で迷走していくのに対し、和子が暗い青春時代に溜め込んだネガティブパワーを反転させてゴールへと爆走していく様子はある種の快感をもたらす。また、和子は美しくなっていくにつれ、逆に生命力が徐々に衰えていくという設定がはかない。和子の中では、美しさと生命力は反比例の曲線を描いている。もはや和子に生きる気力を与えているのは、初恋の相手に逢いたい、あの腕に抱かれたいという少女期の乙女チックな願望だけだ。大九明子監督をはじめ、脚本、撮影、特殊メイクとメインスタッフは全員女性。高岡早紀が美熟女ボディ(部分的に特殊メイク仕様)をさらしているが、初恋の相手を演じた加藤雅也との絡みのシーンは女性目線のムードを重視したものとなっている。
和子は人を愛することでモンスターへと変貌した哀しい女だ。そして、その愛が成就したことで、和子の中のモンスターは死滅する。『ヘルタースケルター』のヒロイン・りりこが異国の地で異形のモンスターとして生きていく道を選ぶのに比べ、ラストも非常に対照的となっている。いずれにしろ女性モンスターは無敵の存在である。彼女たちに太刀打ちできる男は、今のところ何処にも見当たらない。
(文=長野辰次)
『モンスター』
原作/百田尚樹 監督/大九明子 脚本/高橋美幸 撮影/大沢佳子 特殊メイク/江川悦子 出演/高岡早紀、加藤雅也、村上淳、大杉漣 配給/アークエンタテインメント R15 4月27日より丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中 (c)2013「モンスター」製作委員会 <http://www.monster-movie.jp>
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