宮藤官九郎が描くアイドルドラマ『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ!」な魅力
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アキが世田谷に住んでいたことを知った時、それまでクールに振る舞っていたユイが目を輝かして「下北沢ってさ、演劇とロックの街なんでしょ? 秋葉原って、オタクとアイドルの聖地なんでしょ? 毎日どっかで誰かが握手会やってるんでしょ? そうだ、井の頭公園でボートに乗ったカップルって、絶対別れるんでしょおー?」と興奮するシーンは象徴的だ。呆気にとられるアキに、矢継ぎ早に東京に対するイメージを口にする。「原宿って、表と裏があるんでしょ? 芸能人って、だいたい裏に生息してるんでしょ? 吉祥寺って、住みたい街ナンバーワンなんでしょ?」
その姿に、東京で生まれ育った自分には見えない景色があることをアキは知る。そして同時に自分が「かっけー」と思っているこの田舎の風景も、ユイには見えていないのではないかと気づくのだ。
このドラマでは、そういった物事に対する見方や価値観の対照的なコントラストがいくつも重層的に描かれている。たとえば春子と夏、春子と24年前の春子、アキと24年前の春子……というように。田舎を愛する人々の思いも、田舎を嫌い東京に憧れる思いも、東京から逃げてきた思いも、ただ肯定するわけでも、切り捨て否定するわけでもなく、ひとりひとりの思いを丁寧にすくい上げていく。だからいつの間にか僕らは登場人物みんなが好きになってしまう。
「アイドルになりたーーーいっ!」
ユイが「東京行ってアイドルになりたい」と言ったときは「何言ってるんだ、この子は?バカなのか?」と開いた口がふさがらず、聞こえなかったフリをしていたアキも、彼女のその切実な思いを帯びた叫び声を聞き、ユイが「自分がかわいいことを知っている。そのことになんの迷いも戸惑いもないんだ」ということに気づくと、思わず「かっけー」とつぶやいた。
やがてユイは「ミス北鉄」となって地元のアイドルになり、アキもまたその余波を受けて「北の海女」としてアイドル的存在になっていく。彼女たちを応援する人々はみんな夢中でキラッキラに輝いている。そんなアキの「かっけー」は好きなものに向けられる。それはウニであり、それを獲る夏ばっぱであり、三陸の海であり、親友のユイだ。それらは彼女にとっての「アイドル」と言い換えることもできる。彼女は彼女にとってのアイドルを支えに、あの日、自ら海に飛び込んだように一歩一歩を踏み出す。一方でアキ自身も他の誰かのアイドルとして見守られることでまた別の力をもらい、誰かに力を与える。そしてアキだけでなくこのドラマの登場人物たちは、みんな自分のアイドルを持っているのだ。
アイドルに夢中になるということは、それを全力で支えているということを支えに生きていくということだ。アイドルを見る時、僕らはそのアイドルたちに思い入れたっぷりになって、自然と全力で応援してしまう。けれど、逆にアイドルたちから応援されているように元気をもらうことがある。いつの間にか笑顔になっている。思えばそれは『あまちゃん』を見て、登場人物みんなに思い入れて応援しているうちに、笑顔になって元気をもらう、僕らの姿と同じだ。このドラマの魅力は、アイドルを見ている時に感じる魅力そっくりだ。『あまちゃん』はアイドルを描くアイドルドラマであると同時に、アイドルに夢中になることそのものを描いている。そして、このドラマ自体がアイドルのようなものという意味でも、まさしくアイドルドラマなのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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