生まれながら目が見えない人が映画を撮ったら、こうなった──『INNERVISION』
#映画
いったい視覚障害者は、どのような感覚の中で生きているのか。公開に先立ち4月15日に渋谷アップリンクで行われた特別上映イベントは、目の見えている人なら感じるであろう疑問に回答してくれる画期的なイベントであった。その試みとは、場内を完全に暗闇にしてから音声だけで『INNERVISION』を上映。その後に、通常通りに上映するというものである。現代社会に生きていて、完全な暗闇の中に我が身を置く機会はまずない。
本編45分の短い(音声だけの)上映中、感覚は少しずつ変わっていった。最初は耳で音だけを感じ取っていたのが、次第に周囲の人の気配、そして嗅覚が鋭敏になっていく感覚を覚えたのだ。
しかし、上映後に話を聞いた加藤さんは、筆者の「目が見える人よりも感覚が鋭敏なのではないか」という問いを笑いながら否定した。
「目の見える人にはよく言われるのですが、特にほかの人よりも優れていることはないと思っていますよ」
そして、目が見えない中で人を判断する要素として、声が重要な位置を占めていることも教えてくれた。前述の通り、美人が何かわからないという加藤さんは、こう語るのだ。
「今日も、いい声の人がいたなあ」
と(実際、なぜだか知らないが若い女性の観客が多かった)。でも、加藤さんは、こう続けるのだ。
「それでも、やっぱり面と向かって話さないとわからないよね」
さて、45分の本編の中で、所属するNPOで映画を制作する話が持ち上がったのをきっかけに監督になった加藤さんの苦闘は続く。作る映画は、誰もが楽しめるアクション大作だ。脚本家や映画監督を訪ねて映画の制作方法を尋ね歩くも作業はなかなか進行しない。ネタバレになってしまうが、本作の中で加藤さんの映画は完成しない。ドキュメンタリーは完成したが、映画の制作はまだ継続中なのだ。時間がかかっている理由を加藤さんは
「自分のイメージしたものを人にどのように伝えるかが問題なんです」
と話す。
こんな魅力的な被写体と出会うアンテナの高さを賞賛した筆者に佐々木監督は「たまたまですよ」と謙虚に笑う。まだまだ、加藤さんの映画が完成するまで佐々木監督は同道していくつもりだという。その長い道のりを、観客として共に歩んでみては、どうだろうか。
(取材・文=昼間 たかし)
<上映情報>
2013年5月4日(土)より渋谷アップリンクにて公開
http://www.uplink.co.jp/movie/2013/8295
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事