ネット広告市場が8600億円超えで急成長 鉄槌を振るう電通と博報堂の目論見
#IT #電通 #広告
2012年、ネット広告最大手のサイバーエージェントが1411億円の売り上げを計上。ネット広告市場全体でも8600億円を超えるほどに成長している。一方、ネットなどでは「電通・博報堂はネット広告に弱く、今後弱体化する」という見方もなされているが、広告業界を牛耳ってきたこの2社は本当に衰退していくのか――?
電通、早期退職100人募集――新年早々、こんなニュースがネット上を賑わせた。ガリバー企業の崩壊の始まりか、構造改革の一手か。多くのメディアがそうした予見を書きなぐったことは、記憶に新しい。
だが電通はこの騒動を尻目に、その翌月の2月に「2012年 日本の広告費」を発表。景気後退のあおりを受けつつ、東日本大震災の反動増もあり、「総広告費は5兆8913億円で、5年ぶりに前年実績を上回った」と報じ、多くのメディアやエコノミストたちもまた、一転して希望的観測を述べるのであった。しかし、リーマンショック以前の総広告費には、依然1兆円以上及ばない。
日本経済を測るバロメーターでもある広告業界の市場規模だが、果たしてアベノミクス効果を追い風とし、再び躍動し始めているのだろうか? 現場の声を拾いつつ、広告業界の行く末をみていこう。
「今、広告業界は、IT技術を駆使し、広告の効果を数値化できる広告プランニングに移行しているため、メディアの枠買いという直接的な効果が見出しにくい受動的なビジネスモデルに見切りをつけないと、活路を見出せない状況にまで追い詰められています。電通、博報堂、ADKの大手3社はさておき、大広や読売広告社など業界4位以下の会社は大型の広告取引の立案が難しい。サイバーエージェント(CA)やオプトなど、ネットでの広告プランニングを手がける代理店が業界上位に食い込んできている一方で、今でも メディアバイイング力=広告会社の規模 という旧来型の図式が支配的な広告業界では、ネットでのノウハウや独自の媒体を持たない中小が上位に食い込む可能性はゼロ。名も知れぬ第三極ローカルや、売り上げ5億円未満の中小は、数年以内にどんどん倒れていくでしょう」
そう話すのは、電通の某アカウント・プランナーだ。
「東芝エージェンシーやアイプラネットなど、特定の企業としか仕事をしないハウス・エージェンシーは、自社メディアを開発しない限り、窮地に立たされるのは時間の問題。今年1月、相鉄エージェンシーが身売りしたことからも、それは見て取れます。博報堂と経営統合して10年がたつ大広、読売広告社も、統合直後の営業利益に戻ってしまった。12年、10位圏内で明るい話題があったのは、グループ企業が『渋谷ヒカリエ』を開業させた東急エージェンシーぐらいでしょう。数多くのナショナルクライアントとつながりが深く、マスコミ4媒体の内情にも詳しい、電博以外で躍進する総合広告代理店はない。電博が市場シェアの50%近くを寡占している状況下、中小が活路を見出すなら、電博から仕事を受注するか、海外にジョイントベンチャーを作ることぐらいしかないんじゃないかな」(同)
電通・博報堂とその他。広告業界の二極分化は、拡大していくばかりなのだ。
■結局市場を握るのは電博とグーグル・ヤフー
このように、電通と博報堂DYグループというガリバー2社の寡占が進み、それ以外が衰退をし始めるという業界にあって、前年比107.7%を計上し、テレビに次ぐ第二の広告メディア に成長したのが「インターネット広告」である。
黎明期(96年)には16億円だった市場規模も、2年後に114億円、03年には1000億円を突破し、急速に拡大。12年には8680億円を計上した。一見すると好調をキープし、右肩上がりの業界のようだが、さていかに?
大手ネット広告代理店の社員は「クライアントの争奪戦は、今もって熾烈です」と、話す。
12年の売上高が1400億円を誇ったサイバーエージェントのように、ネット広告を主軸としながらも、PCやスマホ向けのメディア事業も手がけるネット広告代理店はごくわずか。DACやオプト、GMO、セプテーニなどのネット広告業界で上位の代理店では、営業力や技術開発力といった自社の強みを生かしながら、覇権争いに日々奔走中だという。
そんな状況であるにもかかわらず、現在でも新規参入を試みる会社が雨後のタケノコのごとく現れているのだ。
「彼らはネット上には市場拡大の余地があり、いまだ収益源になりそうな対象を獲得できるチャンスが転がっている、という幻想を抱いているようです。実際にはすでにレッドオーシャン化しており、激しい競争にさらされるのですが……」(前出・電通プランナー)
こうしたトップランナーたちの苦悩を知ってか知らずか、インターネット広告業界の勢力図は、今もってアップデートされ続けているのである。
このようにネット広告代理店は、機動力と専門性を武器に、広告業界全体でも上位を占めるようになってきた。今後の発展のキーポイントは、日進月歩で進化するIT技術をいかにキャッチアップできるかによるところが大きいという。一方で前述の通り、ネット広告業界内での競争は熾烈を極めている。
バナー広告が主だったゼロ年代半ばまでは、送り手側が一方的に情報を露出し、それをクリックしてもらえば、広告主のサイトに誘導できる時代だった。広告代理店の仕事も、メディア・レップ(メディア側を代理する会社)が買い付けてきた媒体の広告枠をクライアント(広告主)に売るというビジネスが主流。広告主のマーケティングROI(効果測定)を高めることを第一に考える現在とは違い、代理店の仕事は枠買いにとどまっていた。
だが、こうした広告手法に転機が訪れる。ネット広告が、ユーザーの興味や関心にターゲティングした、リスティング広告の時代に入ったのだ。
「特に08年に起こったリーマンショック以降、純広告の予算が激減したことで広告主側は、ユーザーアクションと連動して課金される『クリック課金制度』に活路を見出し、アドネットワークにシフト。広告の「運用」という概念が一般化しました。この動きは、現在のネット業界の考え方の根幹になっています」(業界に詳しいジャーナリスト)
リスティング広告は「アドネットワーク配信型広告」と「検索連動型広告」という2種類の広告配信方法に大別できる。前者はウェブページのコンテンツや文脈、ユーザーの行動履歴に連動した広告を表示し、後者はヤフーやグーグルで検索されたキーワードに連動した表示がなされる。双方ともにサイトへのアクセスを増やすためには、広告主への専門性の高いアドバイスが必要となる。
ネット広告の初期は、広告主の媒体への信用度も低く、中小の広告主を開拓することが中心。大手広告代理店の手がけるマス広告とは別の世界を形成していた。そんなさなか、少ない投資でも効果が視覚的にわかるリスティング広告が誕生。大企業もネット広告に関心を示し始めるのだった。
■新興ネット企業は電博が買いあさり淘汰
そして現在、ネット広告は、さらに進化を遂げている(現在の業界の勢力図は、@hirohirokon氏によって作成された「カオスマップ」<http://www.venturenow.jp/main-img/tsubaki_100728-02-1.jpg>に詳しい)。大手広告代理店とネット専業広告会社の棲み分けが進み、市場にプレイヤーが溢れているのだ。
各社が新たなビジネスモデルを模索する中、電通や博報堂がネット系代理店を買収し、傘下に収めることも常態となった。これは、ノウハウの蓄積に乏しい企業が淘汰されていくことを意味する。
機動力、専門性を要求されるネット広告業界では、今後も大小さまざまな提携劇が続くことは間違いない。
「ネット広告業界の勝ち組は、ナショナルクライアントの予算を握る電通と博報堂DYグループです。なぜならいまだ、ナショナルクライアントの上層部はネットに対する信頼は低く、つながりの深い代理店にあずけてしまう実情がある。ですが、この2社に加えて、世界基準のポータルサイトを運営するヤフーとグーグルが、ネットでは真の覇者だと思います。さまざまなツールの受け皿として機能するヤフーとグーグルは、黙っていても莫大なマージンを手にすることができる。ネット専業のツールベンダーがどんなに先鋭的な技術を開発しても、所詮は彼らの手の平で転がされているに過ぎません。厳しい見方をすれば、売上高100億円規模以下のネット専業の広告会社は、ここ数年のうちに業界から淘汰されるか、資本力のある代理店に買収されていくのは確かでしょう」(前出・大手ネット広告代理店社員)
果たして広告業界に夢物語は存在するのか。アベノミクス効果を追い風としつつも、生きる会社・死ぬ会社はすでに決まっているのかもしれない。
(文/メコン伝太)
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