きうちかずひろvs. 三池崇史による“男の世界”!『藁の楯』に立ち込める濃厚なるVシネマの香り
#映画 #パンドラ映画館
超武闘派の若手刑事に。スクリーンに異様な暑苦しさを与えている。
法律は守られず、社会秩序はぶっ壊れてしまった。警察側にも内通者がいるらしい。もはや信じられるのは、自分に与えられた任務を最後までやり抜くというシンプルな“職業意識”だけ。この職業意識こそが『藁の楯』という作品を支えている。原作者の木内氏は漫画、小説、邦画という枠に囚われることなく、『藁の楯』を書き上げた。締め切りに追われる中で、とことん読者が喜ぶものを届けたい。エンターテイメントを生業とする者の使命感だ。同じ1960年生まれ、Vシネ育ちの三池監督もその部分に同調したと思われる。Vシネの世界でキャリアを重ねてきた三池監督は、数百円のレンタル料金を払う客たちが「おぉッ」と唸るようなカットを生み出すことに心血を注いできた。限られた条件の中で、それ以上のものを見せてやる。それがVシネ魂だ。
メジャー作品を撮るようになっても、三池監督にはVシネ魂が根づいている。予算やスケジュールは以前に比べるとマシになったが、有名企業が名前を連ねる製作委員会方式では別の制約がいろいろと生じるようになってきた。そんな息苦しい状況から、どうやって突破口を見出すのか。その突破口を見出す作業こそが、三池監督にとってのエンターテイメントなのだ。原作には新幹線の車両内での銃撃戦シーンがあるが、日本のJR相手では絶対に撮影不可能。そこで三池監督は自ら台湾に足を運ぶことで突破口を見出した。台湾高速鉄道と交渉し、日本の700系にそっくりな新幹線700T型を使っての撮影を実現させた。日本とはカラーリングの異なる新幹線が、妖しい三池作品にぴったりだ。台湾は『ボディガード牙/修羅の黙示録』(95)や『極道黒社会 RAINY DOG』(97)など初期三池作品のロケ地でもある。結局は自分の体に染み込ませてきたもので闘うしかない。
『JIN 仁』(TBS系)の大沢たかお、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の松嶋菜々子。高視聴率ドラマに主演した人気俳優ふたりが、三池作品に初参加している。ワーナー配給らしい、贅沢なキャスティングだ。でも、『藁の楯』にはどこかVシネ臭が漂う。大沢、松嶋も熱演してみせるが、より輝いているのが若手刑事役の永山絢斗。『ふがいない僕は空を見た』(12)や『みなさん、さようなら』(13)と同じ役者と思えないほど、異常に熱い。清丸に襲い掛かる一般市民役の長江健次と高橋和也もいい。長江は「イモ欽トリオ」、高橋は「男闘呼組」で大人気を誇ったが、今ではすっかり見る機会が減ってしまった。漂う哀愁こそが、長江と高橋の体に染み付いた最大の武器だ。ブレイク前の向こう見ずな若手と活躍の場を失ったかつての人気スターがスポットライトを浴びる。そこもまたVシネっぽい。『藁の楯』から漂うVシネ臭、嫌いにはなれない。
(文=長野辰次)
『藁の楯 わらのたて』
原作/木内一裕 脚本/林民夫 主題歌/氷室京介 監督/三池崇史 出演/大沢たかお、松嶋菜々子、岸谷五朗、伊武雅刀、永山絢斗、余貴美子、藤原竜也、山崎努 配給/ワーナー・ブラザース映画 4月26日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー (c)木内一裕/講談社(c)2013映画「藁の楯」製作委員会 <http://wwws.warnerbros.co.jp/waranotate>
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