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抗日映画と噂された歴史超大作がついに日本公開!

日本統治下の台湾で起きた大量殺戮事件の真相! 異文化との軋轢が呼んだ悲劇『セデック・バレ』

SeediqBale3.jpg霧社事件を克明に再現したアクションシーンの過激さがハンパない。
映画初出演となる原住民キャストは素足で森の中を駆け抜けるシーンの撮影を続けた。

ウェイ 原作の漫画でも原住民の文化について多少は触れてあったのですが、ページの多くは日本側の警察と原住民たちとの衝突の描写に割かれていました。日本が原住民の優秀な若者に日本名を与えて警察官として駐在させた警察制度や、現地の日本人が厳しい労役を原住民たちに課していたことも描かれていました。漫画を読んでいくうちに、やはり人間ですから感情を煽られます。統治する側と抑圧される側、しかも抑圧される側は少人数で圧倒的な武器を備えた正規の軍隊と戦うわけですから、どうしても抑圧される側に感情移入してしまいます。さらに蜂起した原住民たちは最後は戦死ではなく、自決の道を選ぶわけです。でも、ちょっと冷静に考えれば、実際に起きた事件は漫画で描かれた物語みたいに単純なことではなかったと気づくはずです。事件が起きた背景には、もっと深い事情があったのではないかと。単純な憎しみだけで相手の首を狩るだろうかと。漫画はどうしても民族間の対立を分かりやすく描いてしまいます。そこで様々な資料を調べ、また原住民の方たちに話を聞きに通いました。そうすることで気づいたのは、原住民の高齢の方たちが「ガーヤ」という言葉をよく使っていることでした。

 『セデック・バレ』で詳細に描かれているのは、原住民たちが先祖代々から受け継いでいる伝統と祖先崇拝を何よりも大切にしていることだ。豊かな自然の中で育まれてきたそれらの伝統や信仰を棄ててまで、日本がもたらした新しい文化には馴染もうとはしなかった。

ウェイ 「ガーヤ」とは原住民にとっての信仰であり、生活の一部でもあるんです。彼らにとって、どう食べるのか、どう歩くのか、どう暮らすのか。それらすべてがガーヤなんです。彼らにとっては狩猟もガーヤです。狩りに出掛けるときは、まず鳥のさえずりを聞かなくてはいけない。これもガーヤです。他者との間でトラブルが起き、どちらが正しいのか誰にも証明できない場合があります。そういう場合は、どちらかが相手の首を狩る。首を狩ったほうにガーヤは味方するよと。首狩りもまたガーヤなわけです。ガーヤを信仰する彼らは、大人の男として認められるには結婚しなくてはいけません。そして結婚するには、出草、つまり首狩りをしてみせ、真の男(=セデック・バレ)であることを証明しなくてはいけませんでした。女性の場合は美しい布を織ることができるようになれば、大人の女性と認められました。これもガーヤ。男の場合は首狩り、女の場合は織物。そうすることで初めて大人の証しとして刺青することが許されたわけです。彼らが大事にしたガーヤを映画の中でどこまできちんと描けるかは、苦心した点ですね。

 本作の主人公である反乱部族の頭目モーナ・ルダオを演じたリン・チンタイは原住民の血を受け継ぎ、また現地で教会の牧師を務めている人物。現地の道案内としてウェイ監督と知り合い、貫禄ある風貌から出演を懇願されて俳優デビューとなった。クリスチャンとして博愛の精神を広める牧師であるリン・チンタイは、“首狩り”シーンを演じることに抵抗はなかったのだろうか。

ウェイ 先祖から伝わる伝統と自分が選んだ信仰との間に、葛藤はなかったかということですね? 僕が知っている限りでは、そのことには特に悩んではいないようでした。文化と宗教というものは永遠に結びついている部分と、どのようにしても相いれない部分があるものです。原住民である彼らは漢民族が移り住むようになる前から台湾で暮らし、歴史の中で幾度も統治者が替わっていくのを見て、数多くの衝突を経験し、ようやく自分たちの持っている伝統と信仰と、それとは異なる文化とを、どう共存させるべきかの方法を見だしたように思います。彼らは狩りに出掛けるとき、今でも粟をかみ砕いて作ったお酒を地面にまいて祖先に祈祷します。これは彼らにとっての文化。教会に行って、イエス・キリストに祈りを捧げる。これは宗教なのです。文化と宗教を別のものとして、今の彼らはうまく棲み分けを行っているんです。でも、ときどき悩むことがあるそうです。神に祈りを捧げているとき、自分が交信しているのはイエス・キリストなのか、それともご先祖さまなのか? たまに自分たちが交信している相手が分からなくなるそうです(笑)。

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