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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.218

ジャッキー先生が体を張って教えてくれたこと。最後のアクション大作『ライジング・ドラゴン』

risingdragon2.jpg十二支像を盗み出し、模造品とすり替えるトレジャーハンターの
JC(ジャッキー・チェン)。雇われ仕事のはずが、次第に愛国心が芽生えてくる。

 さらにジャッキー先生の身軽さを活かした新アイテムが“ポータブル・ハングライダー”。本来のハングライダーに比べると小さい分だけ浮遊力に欠けるが、ジャッキーのコミカルスタントとの相性はバツグン。十二支像を盗み出すために忍び込んだ屋敷内でのJCと番犬たちとの追いかけっこは、ロイドやキートンたちが活躍した頃の無声映画を彷彿させる。アクションは言葉の壁を軽々と越えてみせる。ジャッキー先生は古き善きものを敬うことの大切さも教えてくれるのだ。

 辛亥革命100周年を祝した歴史大作『1911』(11)の総監督を務め、中国のおエラい方たちを喜ばせたジャッキー先生。香港返還後は中国当局ともうまいことやっている。業界を牽引していくには社交的な顔と本音の使い分けも必要なことを身をもって教えてくれているわけだが、映画人ジャッキー・チェンが中国だけでなく世界中のファンのために作ったのが『ライジング・ドラゴン』だと言える。やはりジャッキー先生は大将軍の役より、陽気な冒険家のほうがよく似合う。そんなジャッキー先生のメッセージが込められたシーンがある。失われた十二支像を巡って、中国人留学生ココ(ヤオ・シントン)とおじいちゃんから相続した十二支像の一部を所有するフランス人のお嬢さまキャサリン(ローラ・ワイスベッカー)が口論となる。「中国から盗んだ物を返しなさいよ」と欧米人の過去の悪行を責め立てるココに向かって、JCはこう説く。「やめろよ、現代の価値観で過去を裁くことはできないよ」。世界各国を渡り歩き、多くの人たちと触れ合ってきたJC/ジャッキー・チェンならではの金言ではないか。

 「現代の価値観で過去を裁くことはできない」という言葉は、欧米、そして日本も含めての帝国主義を決して肯定するものではない。だが他国が過去に行なった非道の数々をあげつらうために歴史を学ぶのではない。同じ過ちを繰り返さず、これからの共生の道を探るために歴史を検証するのではないか。十二支像は近代アジア史の表と裏の両面を物語るシンボルとしてこそ価値があるはず。そんな十二支像をアンティークオークションの相場を吊り上げるための道具にしか考えない依頼主のゴーマンさに、JCは怒りが込み上げてくる。

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