現実に追い抜かれそうな危惧もある――『機龍警察』月村了衛の世界観を生み出したもの
#インタビュー
月村 石堂藍(註:文芸評論家。東氏と共に「幻想文学」編集・発行人)さんと東さんがおっしゃるには「早稲田中を捜しても、山田風太郎にここまで詳しい人間はいない!」ということで。「ホントかよ」と思ったんですが。
――いきなり文芸系学生サークルより一段高いところから、始まった感じですね。
月村 その後も幻想文学出版局とは、そういう形でお付き合いはあったんですが、当時は映画の勉強に専念していたので、学生サークルとしての幻想文学会とは、ほとんど付き合いがなかったんですよ。東さんとは、それ以来2~3回、お話しさせていただいただけですが、自分の中で「東さんに取り上げていただけるような作品を書いて、作家として再会したい」という目標が生まれました。そしたら、その前に「幻想文学」が終刊になってしまって。
さらにこの話には続きがありましてね。『日本幻想作家事典』(東・石堂編著、国書刊行会)が、ずっと刊行延期を繰り返していたのですが「自分がデビューするまで延期してくれ」と、気が気じゃなかったんですよ。それで「よし、今年も延期、今年も……」と思っていたら、デビューよりちょっと先に刊行されちゃって。2つの大望が、もろくも崩れ去ってしまいました。でも先日、国書刊行会の方が仲介してくださって、東さんと30年ぶりにお会いいたしまして、大変感激しました。
――学生時代には映画の勉強に専念されていたということですが、一口に映画の勉強といっても、制作から脚本までさまざまなものがありますが。
月村 脚本はもちろんですが、最初から見るほうというか、評論系でしたね。当時新宿にありました、佐藤重臣さんがやっていた黙壺子(もっこす)フィルム・アーカイブや、早稲田のACTミニ・シアターなどによく行きました。時期的に考えても、隣に町山智浩さんとか、柳下毅一郎さんが座っていただろうと思うのですが……そういう日々を送っていました。
――映画を見て、何かを書いていたんですか?
月村 梅本洋一先生(註:「カイエ・ドゥ・シネマ・ジャポン」創刊編集長)が、フランスの留学からお帰りになって早稲田で映画の授業を初めて持った年の、いわば生徒第1号なんです。映画を見てレポートを出すという授業で、まあそれなりに書きました。梅本先生からは、映画の見方の基礎とでもいうべきものを教わりました。……私自身は「映画宝島」創刊準備号から買ってる、「映画秘宝」の読者なんですが。
梅本先生は、町山さんや柳下さんには「リュミエール派」とか批判されていますが、当時、梅本先生に「どういう映画を授業で見たいか」と聞かれるんですね。それは早稲田のライブラリーの中から選ばなきゃいけないんですが、リストを見ると、そんなに数があるわけではない。当然、字幕はありません。その中でまず見たいのはやはり限られていて、「じゃあ『フランケンシュタインの花嫁』お願いします」とか言うと、必ず「君はいつもつまらないものばかり見たがるね」と苦言を頂戴するわけです。一方で、そんな不肖の生徒が語るテレビドラマの話、それも「映画的観点における必殺シリーズ」みたいな話に耳を傾けてくださり、論文の執筆を勧めてくださいました。
――そこで『フランケンシュタインの花嫁』を出してくるとは、「分かってるな」と思ってしまいますが。
月村 当時、名画座や上映会でしか見る機会がなかったので。高校時代から普通に上映会でバスター・キートンの『セブン・チャンス』や『探偵学入門』などを立て続けに見ていたんです。これがなかなか映画的カタルシスに満ちていて、やみつきになったという感じですね。それ以前にもリバイバルで『天国と地獄』を見ていて、これが一番大きかったかなと思います。
――早稲田はホント変わった方が多い大学だとは思いますが、そういった映画を見ていて話の合う友人・知人というのは、学内には……。
月村 いませんでした。
――もっぱら学外の人間と交流する感じで?
月村 学外の付き合いもなかったですね。もう1で観て、ただそれだけという。1人で観て、映画の本を読んで、また観るという。当時柳下さんとかあちこちで鉢合わせしてるはずなんで、もし友達になれてれば、何十年という年月を孤独に過ごさずに済んだのになぁ、と思います。
映画を作るサークルとかに行っていれば、また違っていたのでしょうけれども、なぜかそういうところに行かなかったんですよ。
今思い出したんですけれども、私、就職活動は一切してないんですが、それらしいことを1つだけやりました。当時、松竹が十何年振りかで助監督を採るというのがキネ旬に載りまして、それを受けに行きました。試験会場は明大でした。もうそういうTPOに応じた服装なんて知らないものですから、学生服で行きましてね。学生服好きなもんですから。行くと、まあいろんな格好したのがいて、スーツで来てるのもいればすごくラフな格好で来てるのもいて。試験の内容は一般常識、普通の試験だったんですよ。で、おっこっちゃいまして。でも、そういう経験ができて良かった。唯一受けた就職試験ですので。予備校講師の職は面接と模擬授業だけでしたから。まあそれも試験と言えば試験ですが。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事