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世界一危険な国に、平和な独立国家が存在!?『謎の独立国家ソマリランド』

somarirandokami.jpg『謎の独立国家ソマリランド』
(本の雑誌社)

 独立国家ソマリランド。

 その存在は謎に満ちている。場所はソマリア国内。んっ、ソマリア? 日本人には、あまりなじみのない国だが、アフリカ東北部、エチオピア、ケニア、ジブチと隣接している。ソマリア国内は現在、無数の武装勢力による内戦が続いており、無政府状態。北部は海賊国家プントランドと呼ばれ、外国船の乗組員を拉致を繰り返し、大儲け。南部は自称国家が乱立し、外国人は護衛なしで5分も立っていれば拉致されるといわれるほど。世界一治安が悪い地域として知られる、まぁとんでもない国だ。


 そんな危険な国の一角で、奇跡的に十数年も平和を維持しているのが、独立国家ソマリランド。ある本によれば、独自に内戦を終結させ、普通選挙で大統領を選出。民主化に成功したそうなのだが、一体どういうこと!? 選挙のたびに敗者が「インチキだ! インチキだ!」と騒ぎ暴動に発展するアフリカで、そんなことが可能なのだろうか。

 この謎にとことん深く迫っているのが、『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)。ソマリランドだけでなく、海賊国家プントランド、世界一危険といわれる町・モガディシュについても踏み込んだルポルタージュで、全500ページを超える超大作に仕上がっている。世界的に見ても、おそらく前例がないほど濃い内容だ。

 著者は「謎」や「未知」が三度の飯より好きな、ノンフィクション作家の高野秀行氏。誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書くがモットーで、これまで幻獣ムベンベやら雪男やら未確認動物を追ってきた。そんな彼が、今回は幻の「国家」を追う。
 
 だが、取材といっても、ソマリアは危険すぎてひとりではとても取材ができない。特にモガディシュに至っては、単独行動が許されないため、マスコミ関係者は、通訳、車両、護衛の兵士、ビザの一式、取材アポまでお願いできるツアー業者にすべて任せるのが普通。ところが、さすがは高野氏。独自のルートで、大統領スポークスマン、ソマリランド政府情報省所属の元ジャーナリスト、プントランドのテレビ局の女支局長など、現地の情報通を味方につけ、彼らと共に行動することで、ソマリランドの奥の奥まで取材に成功している。

 傲慢で、いい加減で、約束を守らず、荒っぽく、その上、金にとことんうるさい……と悪評高いソマリ人にもめげず、現地の人が愛する覚醒植物カートをかみながら現地の人と親交を深め、核心を突いていく。

 果たして、ソマリランドは発見されたのか? そして、ソマリアとは一体どういう国だったのか? この国の本質に迫るために必須な氏族至上主義や、海賊行為を行った時の費用や利益の見積書までが紹介され、それを読むだけでも価値のある、高野氏渾身の1冊だ。
(文=上浦未来)

最終更新:2016/06/16 17:10
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