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三陸の海が育んだ新しい生命『ダンゴウオ―海の底から見た震災と再生―』

dangouo.jpg『ダンゴウオ―海の底から見た震災と再生―』
(新潮社)

 津波が洗い流した車や家は、見るも無残な形で海の底へと引きずり込まれた。その残骸は今も海の底に残り、静かに波に揺られている。水中写真家の鍵井靖章による『ダンゴウオ―海の底から見た震災と再生―』(新潮社)は、三陸の海の底でダンゴウオというかわいらしい魚に出会ったことをきっかけに、海底が徐々に復興していく様子を切り取った写真集だ。

 震災後、わずか3週間で取材のために宮古の海に潜った鍵井。リアス式海岸に育まれた美しい海だったそこは、数メートル先も見渡すことができないほどに濁っていた。地上と同じようにガレキが散乱し、ゆったりと泳ぎまわる魚たちや、潮の流れにゆらめく海藻の姿などは皆無。そのままの形で流された家、転覆したままの漁船、海の中でも、地上と同じように目を背けたくなるような光景が広がっていた。しかし、この絶望的なダイビングの中で、鍵井は親指の爪ほどしかない大きさのダンゴウオに出会う。ぷっくりと丸い形をしたこの魚は、ダイバーから「北の海のアイドル」として人気も高い。ダンゴウオと奇跡的に出会えたことが、鍵井にとって写真集をつくる大きな原動力となった。

 鍵井は2年にわたり、定期的に三陸の海に潜った。当初はガレキまみれの海底は濁った色彩のない世界であり、ウニやウミウシなどには出会うことができても、魚に出会うことができなかった。しかし、時が経つにつれ、水は澄みわたるようになり、海藻が生い茂り、ハゼ、カジカ、アイナメなどの魚たちが姿を表わす。少しずつ、海は元の姿を取り戻していったのだ。

「津波にもまれた海で、新しい命の姿を見たときに、『生命を撮影したい』と思うようになりました(略)被災地で生まれる新しい生命から、東北の海の力強さ、底力を感じずにはいられない」

 震災から1年。津波にさらわれた海でかわいらしいダンゴウオやリュウグウハゼたちが卵を産み、稚魚を孵化させていく様子は、まさに自然の力強さを実感させるだろう。大津波でも流すことのできなかった生命は、また新しい季節に新しい生命を生み出していく。

 本書の中でも特に印象的なのが、車の残骸の写真だ。ワンボックスカーと思われる車の中にはオキアミが集っていた。そのオキアミを求めてシートベルトにはウニ、ワイパーレバーにはヤドカリ、タイヤはカニの家になっている。海の底には不似合いなガレキも、自然はその一部として受け入れて、生き物たちはそこでそれぞれのドラマを紡いでいく。

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