海賊国家といわれるソマリアに林立する「国家のようなもの」その実態に迫る!【中編】
#海外 #本 #インタビュー
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■海賊と誘拐ビジネスの実態
――高野さんが見た海賊の実態を教えてください。
高野秀行(以下、高野) 僕も最初は海賊がなんなのかまったくわからなくて、マフィアっぽいのか、あるいは山賊っぽいのかなという漠然としたイメージしかなかったし、かつてのソマリア全土に存在すると思ってました。でも実際には、ソマリランド政府の手が及んでいるところにはいない。
――報道される海賊の被害が出ているエリアは、どのあたりになるのでしょうか?
高野 海賊のメインはプントランドで、7~8割はそこだと思います。近くの南部ソマリアでもやってはいますが、内戦状態の南部は海賊が少ないです。
――変な言い方ですが、安定しているから海賊ができるということでしょうか?
高野 因果関係はわからないけど、もしかしたらあるのかもしれない。というのは、海賊をやっていると万事丸く収まるところがあるわけです。これがもし陸地でやったら、地元で敵を作ることになって、復讐を呼んで内戦になる。外国船を捕まえて身代金を要求すれば誰も傷つかないし、それでお金が回るわけだから、みんな丸く収まる。
――一般にイメージされる海賊は、略奪が基本ですよね。ところが著書を拝見すると、実際にメインなのは誘拐ビジネスとのこと。それもプントランドでは、政府自体が誘拐の交渉を仲介してくれますよね。そうすることで身代金の額は跳ね上がって、交渉もまとまりやすくなる。これは国家事業ということなんでしょうか?
高野 ソマリの氏族社会の伝統なんですよね。昔から敵対している氏族を拉致して、身代金でラクダを10頭とか15頭とか支払わせる。その間、捕虜を傷つけてはいけないという掟がちゃんとある。そういうことに慣れているから、彼らにとって「海賊」はニュービジネスでもなんでもなくて、昔から陸地で散々やっていることを海に当てはめてやっているだけなんです。「不倫は文化」と言った芸能人がいたけど、ソマリでは拉致も文化の一部なんです。
――身代金の額も大きいし、部族間でトラブルも起きない。いいシステムなんですね。
高野 みんなそのシステムをわかっているから、田舎の漁民とかラクダ使いみたいな人でもできる。海賊は特殊な職業ではなく、いつ誰が転じてもおかしくない。例えば、人手が足りないから手伝ってくれよ、みたいなこともあるんです。
――著書の中でも「一族の中に一人くらいは絶対いる」と書かれていますよね。
高野 愛知県におけるトヨタ自動車みたいなものだから、みんな何かしら関連しているんですよ。
――ソマリアの誘拐ビジネスは、金さえ払えば無事に釈放されるのでしょうか?
高野 そうです。殺したら金をもらえなくなる上に、復讐を呼ぶでしょ。彼らは復讐をすごく恐れている。彼らは、いかにリスクをかけずに収入を得られるか常に計算している。非常に合理的な人たちなんです。
――著書の中で出てきた、高野さんが海賊を雇う計画ですが、どこまで本気なんですか?
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