海賊国家といわれるソマリアに林立する「国家のようなもの」その実態に迫る!【前編】
#海外 #本 #インタビュー
入ったらそこがゴールというのをイメージしていたのに、普通に入れて普通に機能している。普通に機能している国の存在を証明するためには何をしたらいいのか、わからなくなってしまったんです。
――著書によると、ソマリランドに入国し、旧ソマリア時代の首都モガディシュに次ぐ第二の都市であるハルゲイサに着くと、すぐガイドを付けましたよね。東洋人が一人で歩いたら危ないなという感じは受けましたか?
高野 身の危険を感じることは、まったくなかったですね。変な奴が寄ってきて金をせびったり、ぼったくったりということはあるかもしれないけど。そこはアフリカの普通の国という感じでした。力ずくでなんとかするという気配はない。何しろ銃を持っている人間がいないというのが驚異的で、大体アジア・アフリカ・南米といったら民間人は武装していないけど警察や軍隊があちこちでウロウロしているのに、そういうのもない。交通整理のおまわりさんしかいないから。
――想像していた、ブラックボックスの海賊国家というイメージは完全に打ち砕かれたわけですね。実際にソマリ人と触れ合ってみて、彼らはどんな人たちでしたか?
高野 人種的にはアフリカですが、アラブ人の血も入っているので美男美女が多いんです。性格的には荒っぽい人たちですね。とにかくガーガー怒鳴って、基本人の話は聞かないし、せっかちだし。欲しいものはガッとつかんでから「それちょっと貸して」と言う。部屋はノックしないし。驚いたのは、物乞いがいないんですよ。彼らは、恵んでもらうぐらいだったら盗むから(笑)。そういえば、ソマリ人が荒っぽいという話で本には書かなかったことなんですが、「ソマリ人にはDVがあるか?」と聞いたら「ない」と言われたんです。本当はあるのに隠しているのかと思ったら、「カミさんを殴ったら、カミさんの一族が復讐に来る」って、イカつい男性が本気で言っていて(笑)。実際、南部ソマリアでは、そんな理由から戦争になることが珍しくないんだそうです。
――言葉や宗教、主な産業などは?
高野 言語はほぼソマリ語のみ、宗教はイスラム教。産業はラクダとヤギの牧畜だけで、工業はなんにもない。
――高野さんはソマリアを説明するために、著書の中で「氏族」という言葉を使っていますが、この概念がないと意味がわからないですよね。「部族」とは違う。「氏族」だと確かにわかりやすいです。ソマリ人がここまで「氏族」にこだわるのは、中東・アフリカエリアでも特殊なのでしょうか?
高野 「氏族」は、日本でいう「武田氏」や「上杉氏」みたいなものです。氏族が違っても、みんなソマリ人だから言語も文化も同じ。それに対して「部族」というのは曖昧な言葉で、私は「民族」と呼ぶべきだと思いますが、言語と文化を共有する集団。アフリカのほとんどの国は多民族国家です。ソマリアもソマリランドもほぼ単一民族国家だけど、その中で異なった氏族が争っている。昔の日本の戦国時代によく似てます。
(【中編へ続く】取材・文=丸山佑介/犯罪ジャーナリスト<http://ameblo.jp/maruyamagonzaresu/>)
●たかの・ひでゆき
1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに、文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。1992~93年にはタイ国立チェンマイ大学日本語科で、08~09年には上智大学外国語学部で、それぞれ講師を務める。主な著書に『アヘン王国潜入記』『巨流アマゾンを遡れ』『ミャンマーの柳生一族』『異国トーキョー漂流記』『アジア新聞屋台村』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『西南シルクロードは密林に消える』『怪獣記』(講談社文庫)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)、『未来国家ブータン』(集英社)など。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞を受賞。
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