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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 『チャイルドコール 呼声』の恐怖

福祉大国ノルウェーで起きる“児童虐待”の恐怖! ノオミ・ラパス主演作『チャイルドコール 呼声』

childcall_main_photo.jpgノオミ・ラパス主演のサイコミステリー『チャイルドコール 呼声』。
オリジナル版『ドラゴン・タトゥーの女』で注目されたラパスが、今回はシングルマザーに。

 団地やマンションを舞台にした映画に注目作が多い。中村義洋監督の『みなさん、さようなら』では憧れのライフスタイルだった団地生活が時代と共に変容していく様子が描かれた。アカデミー賞外国語賞を受賞したミヒャエル・ハネケ監督の『愛、アムール』では高級アパートメントで暮らす高齢者夫婦の切ない介護生活が綴られた。3月30日(土)より公開されるノルウェー映画『チャイルドコール 呼声』はオスロ郊外にあるマンションを舞台に、現代社会が抱える闇がクローズアップされる。オリジナル版『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09)でブレイク、リドリー・スコット監督のSF大作『プロメテウス』(12)にも主演した実力派女優ノオミ・ラパスを主人公に、清潔そうに見えるマンションに潜むDV、児童虐待といった問題を浮き彫りにしたサイコミステリーとなっている。

 『チャイルドコール』の主人公アンナ(ノオミ・ラパス)は8歳の息子を持つシングルマザー。元夫の暴力から逃げるため、息子の手を引き郊外のマンションへと引っ越してきた。裁判所の保護監視プログラムに従っての転居だった。母子2人で平和に暮らせると喜ぶアンナだが、保護監視員は息子を早くこちらの小学校に通わせろ、寝室は母と子で別々にしろ、と口うるさい。ひとりで寝ることになった息子をアンナは心配して、「チャイルドコール」という音声監視モニターを子ども部屋に設置することに。子ども部屋で異変が起きれば、飛んでいけばいい。その晩、このチャイルドコールから子どもの苦しげなうめき声が聞こえてくる。慌ててアンナは子ども部屋を覗くが、息子はすやすや眠っていた。不思議に思ったアンナがチャイルドコールを買い求めた家電店の親切な店員ヘルゲ(クリストファー・ヨーネル)に尋ねると、どうやらチャンネル設定を誤り、マンションの他のフロアの音声が混線してしまったらしい。この説明を聞いて、ゾッとするアンナ。アンナ親子にとって安住の地と思われた新しいマンションだが、他のフロアでは虐待に苦しんでいる子どもがいるかもしれないのだ。マンションに戻ってチャイルドコールのスイッチを入れると、やはり子どものうめく声が漏れてくる。悩み事を相談する相手のいないアンナの不安が日ごとに膨らんでいく……。

 ノルウェーといえば、世界でもっとも男女間の社会格差がないことで知られる高い文化水準を誇る国。社会福祉制度も整っているが、女性の社会進出に伴って夫婦の離婚率も非常に高くなっている。社会制度が整えば整うほど、完備されたシステムと現実の生活との間に深い溝が生じてしまう。大人の都合で振り回される子どもたちがその犠牲となり、ぽっかり開いた溝へと落ち込んでしまうことが少なくない。チャイルドコールのチャンネルを回す度に、子どもたちの誰にも届かない叫び声、そして思い出したくない過去の自分の記憶と接続してしまうアンナ。彼女の顔は、ムンクの『叫び』のように歪んでいく。

Sletaune.jpg『チャイルドコール』と『隣人』を
撮ったポール・シュレットアウ
ネ監督。アルフレッド・ヒッチコ
ックやロマン・ポランスキーの影
響を受けたと語る。

 本作を撮ったのは、勤労意欲のまるでない郵便局員を主人公にした恋愛サスペンス『ジャンク・メール』(97)でカンヌ映画祭批評家週間最優秀賞を受賞したノルウェーの国際派ポール・シュレットアウネ監督。ユーモラスさを漂わせていたデビュー作『ジャンク・メール』と比べると、『チャイルドコール』はかなり鋭角な作風になった印象がある。2月9日、渋谷ユーロスペースで開催された「トーキョーノーザンライツフェスティバル」に参加するため来日したシュレットアウネ監督は、先行上映された本作のトークショーでこう語った。「チャイルドコールが他の家の電波と混線して、児童虐待が発覚したという事件の記事を読んだのが企画の発端。僕自身が子どもを持つ父親です。子どもに対する愛情は良いことだけれども、過剰な愛情は不安や恐怖を招くもの。本作で描かれる恐怖は、僕自身が体感したものでもあるんです」。

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