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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『最高の離婚』の本当のみどころ
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第19回

「離婚には人生のすべてがある」『最高の離婚』の息ができないすれ違い

saikorikon.jpg『最高の離婚』-フジテレビ

「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。

 それは、光生が元恋人の灯里に「昔みたいに笑ってほしい」と語りかけた時だった。

「10年たってもなんにも分かってないんですね。私、濱崎(光生)さんとの間にいい思い出なんかひとつもありませんよ。あなたと別れるとき思ってました。死ねばいいのにって。こんな男死ねばいいのにって思ってました。そんな勝手にいい思い出にされても」

 

 『最高の離婚』(フジテレビ系)の終盤には、いつも息ができないような修羅場が待っている。序盤はすれ違いの短いセリフの応酬でクスクス笑わせながら、針でチクチク刺すように刺激し、丁寧に伏線を張っていく。それが時限爆弾の起爆剤のようになって、後半で突如爆発。本音むき出しの長ゼリフで、鈍器で殴られたような衝撃を与える。そして、思わず「オイ!」とツッコミたくなる大オチが待っている。このドラマは、毎回そんな構成で見る者の胸をわし掴みにしている。
 
 神経質で細かい性格だが、他人に対しては無神経な濱崎光生(瑛太)と明るく大雑把な結夏(尾野真千子)は性格が合わず衝突を繰り返し、ついに離婚届を提出した「もう終わってしまった」夫婦である。そんな光生と大学時代、恋人関係にあった灯里(真木よう子)は普段はクールだが、繊細で時折激しい感情を抑えることができない女性。彼女は女性にだらしがないマイペースな諒(綾野剛)と結婚生活を送っているが、実は諒が婚姻届を出しそびれてしまっている「まだ始まっていない」夫婦である。戸籍上は全員独身。

 光生は言う。「結婚は人生の一部にしかすぎないけど、離婚には人生のすべてがある」と。「別れ」の時こそ、その2人の関係がむき出しになる。

 光生と結夏は離婚届を出した後も、ずるずると同居生活を続けていた。そんな折、灯里と諒に出会い、壊れた夫婦同士の奇妙な家族ぐるみの交流が始まる。

 光生にとって灯里は元恋人であり、人生の中で最も好きだった相手。灯里と結夏は、光生のひねくれた性格に苦しんできた、いわば戦友。と同時に、ある種のライバルのような微妙な関係でもある。諒はそんな3人の中にあって、どこまでもマイペースで何を考えているか分からない。光生はそんな諒を理解できず苛立っている一方で、どこか羨ましく思っている。そんな4人が複雑にすれ違う。

 青森で生まれた灯里は、14歳の時に漁師だった最愛の父を海で亡くした。悲しみに暮れた彼女は、その頃流行していたJUDY AND MARY の「クラシック」という曲に救われる。ヴォーカルのYUKIに憧れ歌手になる夢を抱いて上京し、光生と出会い同棲を始めた。何カ月か経った頃、自分の夢や父のことを打ち明けようと「クラシック」を部屋に流していた。すると、その曲を聴いて光生がこう言い放った。

「何? このくだらない歌。安っぽい花柄の便座カバーみたいな音楽だ」

 そうやって2人は別れた。

 誰かにとっては「生きる希望」のようなものも、別の誰かにとっては「便座カバー」のようなものなのだ。みんな他人なのだから、それは仕方がない。それぞれが正しい方向、生きやすい方向を見ている。だから、見える風景は違う。その視線のズレがアンバランスな関係で成り立ち、人間関係を構築している。それを崩すのは、小さなきっかけで十分なのだ。

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