“違法な”同人誌はなぜ放置されている? 600億円市場に突然警察介入の可能性も…
#著作権 #コミケ #同人誌
サイゾーのニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けします。
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“違法な”同人誌はなぜ放置されている? 600億円市場に突然警察介入の可能性も… – Business Journal(3月10日)
【前回記事はこちら】
『あの名作マンガはなぜ買えない? 創作者に“ものすごい”力を許す著作権の常識』
前回記事では、少女マンガ『キャンディ・キャンディ』にまつわる事件(「キャンディキャンディ事件」)やボーカロイド「初音ミク」などを通じて、創作者が保有する著作権の強さについて紹介させていただきました。
前回の繰り返しになりますが、いわゆる「キャンディキャンディ事件」とは、以下のようなものです。
・作画者のいがらしゆみこさん(以下、マンガ家のいがらしさん)が、原作で原案者の水木杏子さん(以下、原作者の水木さん)の許諾を得ることなく、キャンディキャンディの主人公・キャンディのキャラクターでビジネス始めたことに端を発する事件で、このビジネスに対して、原作者の水木さんが、二次的著作物の著作権侵害の訴訟を起こした。
・キャンディキャンディのストーリーが、水木さん原作、いがらしさん作画による著作物であることには、両者とも争いはありません。
・しかし、マンガ家のいがらしさんは、キャンディのキャラクターを描いただけの絵(便宜的に、「カット絵」といいます)は、上記の二次的著作物ではないと主張します。カット絵ではストーリーは描かれていないので、水木さんの原作は使っていないことになる、という理由によると考えられます。マンガ家のいがらしさんは、上記の「カット絵」については、マンガ家のいがらしさんのみに著作権があり、原作者の水木さんには著作権はないと、著作権侵害を否認しました。
・判決は、原作者の水木さんの全面勝訴。裁判所は、「カット絵」も水木さんの二次的著作物であることを認定し、「カット絵」に関しても、水木さんの許諾なくビジネスはできないとして、地裁・高裁・最高裁とパーフェクト勝訴し、2001年10月に最高裁で結審して、判決は確定しました。ちなみに「確定判決」とは、よほどの理由(新しい証拠が見つかった等)がなければ、ひっくり返らず、他の裁判もこの判断に従うことになるという、事実上の法律に相当する絶対的な判決を言います)
判決理由【註1】の概要は、以下のとおりです(筆者要約)。
(1)キャンディキャンディは、水木さんの原作の二次的著作物と認める。従って、二次的著作物にも、原作者の権利が及ぶとされている著作権法第28条が適用される。
(2)著作権法28条に照らせば、マンガ家のいがらしさんが持つ権利については、すべて同様に原作者の水木さんも持つと解釈される(そもそも、キャンディキャンディに関して、マンガ家いがらしさん“だけ”が持っている権利は存在しない)。
(3)なぜ著作権法第28条が、そのように規定しているかというと、このようなケースを個別判断していたら権利関係が著しく不安定になるし(=訴訟をいくつやっても足りない)、そもそも原作に依存しない二次的著作物というものは観念できない(=そのような著作物はない)。
というものでした。
さて、この判決について、私は妻に、「この判決、法律的には妥当と思うけど、直感的にどう思う?」と尋ねてみたところ、以下のように答えてくれました。
・「カット絵」だけが、原作と完全に切り離されて成立して、マンガ家にだけ権利があるという主張は、変だと思う。
・この作品(キャンディキャンディ)に限って言えば、「原作があってマンガが成立した」と言えるけど、その逆、「マンガがあったから原作が成立した」とは言えないように思う。
・マンガ家のいがらしさんの描く絵は文句なしに素晴らしい。しかし、いがらしさんの絵ではなくても、「キャンディキャンディ」は十分に成立したと思える。それほどに、原作の世界観は、圧倒的で、すごかったから。
以下に、私の所感も追加します。
・私は、高校の時に、友人のアニメ作成に付き合ったことがあります。キャラクターを考え出して、その場面の背景を描きつつ、キャラクターの表情や動作を具体的に絵として落として、所定の期日までに納品することが、どれほど大変で、命を削るような過酷な作業であるか、容易に想像することができます。
・こんなすさまじい地獄の中で画をつくってきた人が、マンガの「カット絵」一つですら、原作者の許諾を得なければビジネスすることができない、というのは確かに理不尽であるようにも思えます。
・しかし、それと同時に、マンガ家のいがらしさんは、それだけの画力があるのだから、キャンディキャンディ以外のマンガでもビジネスはできるはず、とも考えられます。
・逆に言えば、キャンディキャンディ以外のコンテンツではビジネスが成立しないのであれば、キャンディキャンディの世界観こそが「最大の売り」になっているという事実を、逆説的に証明してしまっている、と思えます。
・このように考えていくと、「『カット絵』はマンガ家だけに著作権がある」という考え方を採るのは、仮に著作権法第28条のことを全部忘れてみたとしても、やっぱり難しいように思えます。
●同人誌は二次的著作物なのか?
さて、ここまで読んでいただいて、青ざめている方もいるのではないかと思っています。
というのは、今、「初音ミク」や同人誌などのいわゆるサブカルチャーの著作物は、「二次的著作物」と認定されるものが多いと思われるからです。
「初音ミク」に関する二次的著作物については、次の機会に取り上げるとして、今回は、同人誌を作っている方々を例に、説明させていただきます。
ここで提示する問題提起は、「同人誌は、本当に二次的著作物なのか?」ということです。
同人誌の事件で有名なものに「ドラえもん最終話同人誌問題」というものがあります。これは、ドラえもん最終話を、原作者でない人が同人誌に発表、販売していた事件です。
少し話はそれますが、この同人誌、「これ以外の最終回は考えられない」というくらいの大変に素晴らしい作品で、中学二年生の長女に、この作品を見せながら著作権の講義をしていたのですが、私の解説なんぞには最初から耳を貸さず、「ドラえもんの最終回はこれに決めようよ」と言い出すほどです。
この事件は、著作権者である小学館が侵害警告をして、同人誌の作成者も損害賠償に応じたことで、訴訟に至らずに終結しました。
では一体どのような内容の警告が行われたのか、想像してみたいと思います。
まず一つには、「ドラえもんの二次的著作物を、我々(小学館)に許可を得ることなく、制作、販売するのは、やめろ」というものが考えられます。
しかし、前述のように、私は、「同人誌 = 二次的著作物」とは言えないのではないかと考えています。
同人誌をつくられている方は、当然、原作のアニメやマンガの雰囲気や世界観を反映させながらも、「独自のストーリー」をつくっているはずです。これを、原作品を変形させたり脚色させたりした二次的著作物であると主張するのは、ちょっと無理があるように思います。
しかし、「ストーリーは違うかもしれないけど、アニメやマンガのキャラクターを、そのまま使っているじゃないか」との反論もあるかもしれません。
ところが、最高裁判所が「キャラクターには著作物性はない」と判示しているのです【註1】。判決文の中で、「キャラクターというものは、登場人物の人格とも言うべき抽象的概念であって、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項1号)ではない」と述べています。
私は、この判決文の意味がわからず、何度も読み直し、以下のように解釈しました。
例えば、「ドラえもん」を一度も見たことがない人に、「ドラえもん」というキャラクターを言葉、または文章で伝えようと考えた場合、「22世紀の未来から、のび太を助けるためにやってきたネコ型ロボット」と説明されると思います。これは、「設定」ではありますが「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではないです。
もう少し具体的に考えてみましょう。
例えば、私(江端)を題材とした「江端物語」という架空の創作をする場合に、その物語には、当然私を模したキャラクターが登場することになります。しかし、その私のキャラクターは「思想又は感情を創作的に表現したもの」にはならないでしょう。
●キャラクターの「設定」と「絵」の違い
さて、これを整理してみますと、
(1)同人誌のストーリーにはオリジナル性があり、原作をコピーしたものではない
(2)同人誌に登場するキャラクター(の設定)には著作性はない
ということになります。
二次的著作物とは、乱暴にいうと「原著作物を『取り込んだ』著作物」を指すのですから、「同人誌=二次的著作物」の理屈を導くのは無理ではないか、と思うのです。
「え! 同人誌は、二次的著作物じゃないの? それでは、著作権侵害にはならないね! やったー!」と思われるかもしれませんが、残念ながらそうではなく、もっと悪い結論が導き出せるのです。
確かに、キャラクターの「設定」には著作権は発生しないかもしれませんが、キャラクターを「絵」にしたものには、当然に著作権が発生します(絵画の著作物)。例えば、「ドラえもん」であれば、これまで連載が続いてきたドラえもんのすべてのポーズ、動き、表情に、著作物性が認められます。
では、同人誌をつくっている人は、何をしていることになるか?
アニメやマンガの原作の絵を「切り取って」「貼りつけて」いる、すなわち、原作を「コピー&ペースト(コピペ)」して同人誌をつくっている、と解釈されます。
するとどうなるか? 二次的著作物の認定などという面倒なことはふっとばして、ダイレクトに複製権侵害(第21条)が成立してしまいます。つまり「同人誌=二次的著作物」ではなく、「同人誌=違法コピー物」で、アウトです。直撃です。
原作者や版権元から差し止め(やめろ!)、損害賠償(金払え!)と言われるだけでなく、国家までもがしゃしゃり出て、お仕置き(刑事罰)をしてくる可能性があります。具体的には、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれらを併科する(著作権法119条1項)」という、民法の中でもかなり厳しい内容となっています。
●同人誌の逃げ道とは?
では、同人誌は複製権侵害から、どうやっても逃れようがないのでしょうか?
私は、同人誌の中でも、ある特定の分野に限っては、「逃げ道」があると考えているのです。
「薄い本」です。
「薄い本」とは、マンガやアニメなどの、原作、元ネタがある創作物のパロディを記載した同人誌であって、主に性的な娯楽要素を扱う分野の同人誌、いわゆる「エロ同人本」をいいます。
唯一、複製権侵害を免れる方法があるとすれば、「アニメやマンガのキャラクターの絵を使っているが、原作のコピーであるとは絶対に言えないような絵だけで構成されている」と主張できればよいはずです。理論立てとしては、次のような感じになるでしょうか。
【Step.1】
アニメやマンガのキャラクターが、「あんな淫らなことしている絵」や、「こんなイヤらしいことしている絵」は、原作には絶対に登場しない。
【Step.2】
従って、原作のどの絵をどのように切り取ってコピペしても、私が創作したこの「薄い本」のようにエゲつなく、下品で、スケベで、エロい作品には、断じてならない。
【Step.3】
以上より、複製権侵害は否定される。
と言い張れば、裁判で勝つ可能性に一条の光を見いだすことはできるはずです。
しかし、キャラクターの顔を似せない「薄い本」に商品価値はあるか疑問がありますし、また、弁護士は、「あんな淫らなことしている絵」や、「こんなイヤらしいことしている絵」を証拠として、裁判官や陪審員に開示しながら、あなたを弁護することになりますが、はたして、その仕事、引き受けてくれるでしょうか。
●コミケ会場が封鎖される日
それにしても、同人誌が、複製権侵害を構成すると判断される可能性は相当に高いのに、「1ミリたりとも、絶対にそのような侵害を見過ごさない」という絶対的な決意で取り組んでいるのは、私の知る限り、灰かぶり姫のお城で、ネズミの着ぐるみが踊り狂う千葉県にあるアミューズメント施設を運営する法人だけです。
不思議に思って、ちょっと調べてみたのですが、同人誌を取り扱う市場は、媒体で300億円弱、流通形態で300億円強、合計600億円市場といわれているらしいです。この600億円市場を吹き飛ばすことは、出版業界にとっても、本意ではないのかもしれません。また、国も、コンテンツ産業立国を目指すという国家的な政策から、警察権力の介入を差し控えているだけかもしれません。
しかし、私は、コミックマーケット(いわゆる、コミケ)の会場が、警察によって封鎖され、同人誌がすべて押収されるという未来が、絶対に来ないとは断言できないと思っています。
●ここから本題
さて、今回、キャンディキャンディ事件から、二次的著作物の権利関係を整理し、同人誌の著作権問題を、キャラクターの観点から「薄い本」とからませて説明させていただきました。
実は、ここまでが前置きとなり、ここから本題に入ります。
今回のコラム執筆の動機は、初音ミクパッケージを販売している、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が作成した、ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)の、以下の3行を読んだ時点からスタートしています。
「ピアプロ・キャラクター・ライセンス
第2条(著作権法その他適用法との関係)
1.当社キャラクターは、著作権法その他の適用法令によって保護されます」
あれ、「キャラクターを保護」? キャラクターって、著作権上の保護対象ではないと、判示されていますが、これは一体どういうこと? という疑問から始まりました。
次回では、これまで3回連続で掲載させていただいた「初音ミク」について、法律面からのアプローチを試みたいと思います。また、N次著作の意味と、上記のピアプロ・キャラクター・ライセンスについても、具体的に書きたいと思います。
(文=江端智一)
※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。
【註1】最高裁判決(平成9年7月17日)「ポパイネクタイ事件」
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