震災後2年を経て見つめる、遺体安置所の光景『遺体~明日への十日間~』
#東日本大震災 #石井光太
■事実と「真実」
映画『遺体』の主人公は、西田敏行氏が演ずる相葉常夫(66歳)。定年後は地区の民生委員として働いていたが、震災後はそれまでの葬祭関連の仕事に就いていた経験をもとに遺体安置所でボランティアとして働いた男性だ。
相葉さんは来る日も来る日も遺体安置所で、遺体と向き合った遺族に「ご家族に迎えに来てもらって、とても喜んでいると思います」と声をかけ、体育館に並ぶ身元不明遺体にも「つらいだろうけど、頑張ってくれな」と言葉をかけ続けた。
原作はノンフィクション作品のため、当然、主人公にはモデルがいる。君塚監督は映画化する際に、まずこうした関係者に「映像化することをどう思いますか」と尋ねにいった。それについて次のように語る。
「原作の『遺体――震災、津波の果てに』を読んで、同じ被災者が同じ町の犠牲者のために働いたという内容に、神話のようなある種の物語性があり、驚いた。読み終えてから4日後に、石井さんとお会いしました。その時に、石井さんから『映像化の前に釜石に行って、モデルとなった全員に会ってほしい』と言われました」
そこで関係者に言われたのが、次の言葉だった。映画にも出てくる住職のモデルになった人物から言われた言葉だ。
「事実はあなたにはわからないかもしれないけれど、真実は曲げないでくれ。真実を動かさず、描いてくれ」
だからこそ、君塚監督は「真実」に向かうべく、震災直後からの遺体安置所の十日間を描いた。現地に入ったのが震災から1年後だったこともあり、関係者の言葉も変わり、物語化しているとのことで、「原作をありのままに映像化しようと思った」という。
君塚監督は「僕は現場にいなかったのでわからないです。ここでどういうふうに遺体安置所で働いた人たちが動いたのかは知りません。だから、皆さんで考えましょう」と俳優やスタッフといった映画の関係者に説きながら、この作品を作っていく。
「この台詞は絶対に言ってくれ」だとか「泣かそう、感動させよう」とかという気持ちはまったくなかったという。むしろ、「俳優が言えないことは言わせない。違う言葉を選ぶならば、それを尊重するということをしました。現場で追体験をしている俳優が紡ぐ言葉をそのまま撮った」
映画の中で、この「真実」をめぐる、象徴的なシーンがある。それは主人公の相葉さんが遺体安置所のある体育館の中に、靴を脱ぎながら入るシーンだ。
このシーンは原作にはない。つまり、「事実」ではない。しかし、主人公を演じる西田氏が「自分だったらこうする」ということで、遺体安置所のある体育館には靴を脱いであがり、最後まで演じたのだ。
原作者の石井氏は次のように語る。
「主人公のモデルになった千葉さんは映画を見て、『実は自分もそうしたかったんだ』と話していた。当時は、物理的に靴を脱いで作業するのは不可能だった。でも千葉さんは、靴を脱がずにあがることはつらかったし、誤っていると思っていました。これは事実とは違うけれど、違う形で真実というものにつながった。映画化したことで、ノンフィクションという原作とは違ったものが伝わった」
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