ジャーナリスト・武田徹が推挙 メディアの矛盾と欺瞞を突くドキュメンタリー映画
#映画 #報道 #原発 #東日本大震災
■武田徹(たけだ・とおる)
[ジャーナリスト]1958年生まれ。恵泉女学園大学人文学部日本語日本文化学科教授。著書に『私たちはこうして「原発大国」を選んだ』(中公新書ラクレ)、『原発報道とメディア』(講談社現代新書)など。
今回、メディアのタブーに挑んだ映画を紹介するということで、メディアとは、ジャーナリズムとは何かという問いを、見る者に突きつけるドキュメンタリーを3本選びました。
『チョムスキーとメディア』【1】は、哲学者であり言語学者でもあるノーム・チョムスキーが延々としゃべり続けているのに圧倒されるのですが(苦笑)、テーマはマスメディアによって合意がいかに捏造されていくかということ。彼は作品内で、たとえばカンボジアの虐殺に比べて、ティモールの虐殺はなぜ西側諸国で報道されなかったのかといった問題を突き詰めながら、寡占状態となっているメディアが、国家の利益と一致する形で情報を出すことで、世間の合意が作られていくということを論証しようと試みます。ただし、先進国でそれは国家の検閲によるものではなく、マスメディアが持つシステムによって自然に行われていると訴える。マスメディアの中で現状に批判的な意見は少数派のものとして影響力を持てない。しかしそれでも言論の自由は大切で、彼はユダヤ人でありながら、ホロコースト否定論者に発言の機会を与えないメディアを批判します。言論の内容は肯定できなくても、言論の自由は保証されなくてはならないとする姿勢は極めて筋が通っています。メディアをとことん疑いながらも、人間は話せばいつかわかり合えるのだという理想を追い続けて話し続けるチョムスキーに、希望を感じさせられますね。
『311』【2】は、森達也ら4人の監督が、震災約2週間後にワゴン車に乗って東北に行き、各々カメラを回して現地の様子を撮影した作品。まず原発を撮りに行こうとするものの、装備が不十分で被爆しかねないので撤退、津波被害地域を見に行くことに。こうして彼らがうろたえるさまは、震災後、我先に現場入りしようとしたフリーのジャーナリストたちの姿をカリカチュアライズしているかのように見えます。最後は津波で多くの子どもが流された大川小学校に行って、遺体と遺族の対面のシーンを撮ろうとして、怒った住民から角材を投げつけられる。災害という大きな悲劇の前で、取材の正当性を主張して、悲しみにくれる人たちの心情を土足で踏みにじるメディアの暴力性を反面教師的に見せつけますが、同時に、それでも伝えることを諦めてはならず、歴史的事実を伝えていくべきだと訴えかけてくる内容です。
原発をめぐる作品としては、ドイツの原発関係施設を淡々と映し続けた『アンダー・コントロール』【3】も、示唆に富む作品です。巨大原発施設とそこで働く人々を見ているうちに、どうして人類が原発を求めたのかが言語を超えた説得力で迫ってくる。大きな力を制御したいというマッチョイズムが原発を生み出した根源であることが、表面的なイデオロギーを凌駕して伝わってきます。そして同時に自らが生み出した技術を制御しきれない人間の悲しさを感じる。脱原発にいち早く舵を切ったドイツですが、実は実際にそれを成し遂げる目途は立っていない。
では日本はどうか。3・11後、民主党は30年後に原発撤廃と言っていたのを、反原発派は30年も待てないと反対しているうちに、選挙に敗れ、自民党ではなし崩し的に原発再稼働へと進みつつあります。原子力の力を求めるマッチョイズムに、反原発の声の大きさで勝とうとする別のマッチョイズムで戦うことに問題があったのでは。反原発を主張する映画が多い中、限りなく静かなこの映画は原子力のあり方を見つめ直すヒントとなり得るように思います。
(構成/里中高志)
【1】『チョムスキーとメディア』
監督:ピーター・ウィントニック、マーク・アクバー/出演:ノーム・チョムスキー/発売:トランスビュー(5040円)
ノーム・チョムスキーが、民主主義のプロパガンダはマスメディアのシステムによって自然に行われると、問いを投げかけていく様子と行動を追い続ける。(92年公開)
【2】『311』
監督、出演:森達也、綿井健陽、松林要樹、安岡卓治/マクザム(5040円)
4人の映像ジャーナリストが、震災をその目で確認したいという動機で被災地に入り、ビデオカメラを回すことで生まれた作品。遺族を前に撮影をする彼らは厳しい批判を浴びる。(11年公開)
【3】『アンダー・コントロール』
監督:フォルカー・ザッテル/配給:ダゲレオ出版
福島第一原発事故を受けて、2022年末までに原発を完全に停止することを決めたドイツ。本作は福島原発事故以前から撮影され始めていた作品だが、ドイツにおける原発の終焉を記録した映画としての意味を持つことになった。(11年公開)
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