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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 被災者はサバイバーズギルトにどう対処している? 中田秀夫監督による映像碑『3.11後を生きる』
中田秀夫監督が撮ったドキュメンタリー映画が公開!

被災者はサバイバーズギルトにどう対処している? 中田秀夫監督による映像碑『3.11後を生きる』

nakatahideo_02.jpg「取材を始めたからには途中で止めるわけにはいかなくなった。
完成させることが最低限の義務だと思った」
と中田監督は製作過程を振り返った。

中田 「働かざるを得ないというよりも、何もしないでジッとしていると頭を掻きむしり、どこかに消え去りたくなるような苦しみに襲われるんだと思います。僕もそのような立場だったら、そうなるでしょうね。三浦さんの場合は仏壇に供える花代を稼ぐためでもあるし、三浦さんと同様に家族や家を失ったスナックの従業員たちを食べさせていくためでもあるわけです。だからこそ、前向きに働いている。いや、まだ前向きという言葉は早過ぎるかもしれません。ばっくりと開いた心の傷を、仕事をすることで少しでも縫い合わせる、縫い合わせるのは無理でも、ヒリヒリする痛みを仕事に集中することで一瞬でも忘れることができる。それは長いスパンで見れば、傷の回復に繋がるのかも知れない。もちろん、傷自体は一生消えることはないでしょう。傷という言い方も失礼かも知れない。喪失感とでも言いましょうか。飲み屋とかに行くと、意外とみなさん明るいんですよ。でも、それは笑っていないとやっていられないから。笑いながらも、五十嵐さんが『タイムマシンがあって、あの日のあの時刻の1~2分前に戻ることができたら』と口にすると、みんな泣き出してしまうんです。前向きに懸命に生きようとする気持ちとどうして自分は生き残ってしまったんだろうという、二つの引き裂かれる想いの中で大きく揺らぎながら、被災地の方たちは暮らしているんです」

 『3.11後を生きる』は、残された人たちは復興を目指して懸命に働いているという美談だけでまとめることなく、被災地の問題点についても言及する。被災地では略奪行為や暴動は起きなかったと報道されているが、実際にはショッピングセンターで衣料品の略奪が行なわれ、警察も金銭がらみでないものは見逃していたこと。ほぼ海抜0mという危険な場所に介護老人保健施設を建て、入居していた高齢者たちや介護スタッフが犠牲となったことへの行政責任についても触れている。

中田 「被災地のネガティヴな面を強調するつもりはありません。本当に『うわぁ……』と言葉を失ってしまう部分に関しては編集でカットしています。やはりカットしましたが、避難所では食料品の分配を巡るトラブルも起きていました。『日本人は譲り合いの精神で、略奪行為はなかった』というイメージは外国人やマスメディアが伝えているものであって、現実は違うんだよということだけはちゃんと言っておきたかった。危険な海沿いに介護施設を建てたことに対する行政責任は当然問われるべきですが、その危険性を事前に報じなかった地元メディアにも責任があるように思います。原発問題もそう。福島第一原発の危険性を指摘していた物理学者の高木仁三郎先生がいましたが、どれだけのメディアが高木先生の言葉に耳を傾けたことか。そういう僕自身も学生の頃は原発反対運動に参加したりしていたのに、映画の世界に入ってからは何もせずにいた。でも、今回はジャーナリスティックに問題を追求するというよりも、“職業意識”について描いたものにしています。海抜0mに建てられた介護老人施設で介護スタッフの責任者として働いていた加藤譲さんは車椅子で待機していた高齢者を救おうとして施設に戻り、波に呑まれてしまった。船長だった父親の加藤昭二さんから『責任者が逃げるのは、いちばん最後だ』と教えられ、その教えを忠実に守ったわけです。オーナーや行政側の責任を問うと昭二さんは話していますが、その一方では自分の教えを守ったことで息子を失ったことに苦しんでいる。本当に引き裂かれる想いでしょう……」

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