スッキリしない問題を掘り起こす元祖狂犬芸人の鋭利な牙『加藤浩次の金曜Wanted!!』
#お笑い #ラジオ #逆にラジオ #加藤浩次
しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。
かつての「狂犬」も、いまやすっかり「朝の顔」。そう思っている人にこそ聴いてほしい番組が、この『加藤浩次の金曜Wanted!!』(TBSラジオ 毎週金曜20:00~22:00)である。その牙は滾(たぎ)る感情を乗せたナイフではなく、あらゆる問題を掘り起こす黄金のつるはしへと形を変え、進化を遂げている。『金曜JUNK 加藤浩次の吠え魂』(TBSラジオ)以来約3年ぶりとなるこの期間限定番組(2013年1~3月の計12回)において、そのトークの精度は確実に、目に見えて向上している。
とはいえ、それは「加藤浩次は情報ワイド番組の司会を務めることで、ジャーナリスティックな発言をするようになった」というだけの変化ではない。もちろん「多角的な視点の獲得」という意味では明らかに『スッキリ!!』(日本テレビ系)の司会経験(そしてテリー伊藤の影響)が生かされているはずだが、この『金曜Wanted!!』は情報も議論も逡巡も分析も、すべてがユーモアに昇華されていくという点において、純然たるお笑い芸人のラジオとしての面白さにあふれている。だから、聴き手も構える必要はまったくない。
彼のトークの真骨頂は、その根っこに宿る強い問題意識にある。子どもの学校行事で見た奥さんの走り方に思いのほか幻滅し、「結婚するんだったら、嫁の全力疾走を見てから結婚したほうがいい」と豪語する加藤は、だから海辺でアハハと追いかけっこするような典型的なカップルの行為はみんなやっておくべきで、そこで走り方を見極めてから結婚したほうがいいという突拍子もない結論をいったん導き出し、さらにはそんな嫁が3人の子どもを走り方教室に通わせているという矛盾に、「お前だろ!」と激しくツッコミを入れる。だが問題はそこでは終わらず、笑いの先に「ルックスありきで結婚してる部分もある」という誰もが隠したがる本音や、「関係が安定してくると、嫌なところが見えてくる」という問題を提示し、お笑いコンビにも当てはまる話としてトークを縦横無尽に展開していく。
また、体罰の話題になると、体罰は基本的に否定した上で、「体罰はするけどガリガリ君をおごってくれる先輩がいて、俺はその先輩のことが好きだった」と、体罰という問題に「好き嫌い」という別角度の基軸を持ち込むことによりさらに問題をややこしくした上で、ではどこまでならOKなのか、親子の場合はどうなのか、と自らを右へ左へ揺さぶりながら話を進行していく。
つまり彼には、自分発信でトークを進めていく中で、その途上に次々と問題を発見していくという能力(であり癖)が非常に強くあって、リスナーにとっては目の前の問題を解決してくれるというよりは、「解決できないが考えるべき問題」を提示してくれるという面白さがある。実はこれこそがラジオにおけるトークの醍醐味でもあって、数分間話した程度ですっかり解決できる問題であれば、そんなものはそもそも問題でもなんでもない。話す、そしてその話を聴くという行為の本当の面白さは、考えるべき問題に出会い、それについてねばり強く考え続けるプロセスにこそある。
そしてさらに、この番組の重要な鍵を握る人物として、そんな加藤浩次の問題意識を刺激し続けるパートナー、ケンドーコバヤシの存在がある。意外にも思えるが、加藤とその後輩芸人であるケンコバはこれまであまり付き合いがなく、加藤の「あまり話したことがない人とやりたい」というリクエストにより、この組み合わせが実現したという。ケンコバが稀代のくせ者であるのはもはやいうまでもないが、いち早く加藤の小洒落たカリアゲ頭に着目し、「共産国の指導者みたいな髪型」と指摘してみせたのは、彼もまた違った角度からの「問題意識の鬼」であることの証明であろう。あの髪型に隠されたありもしないメッセージ性を勝手に読み取るという、問題のないところにまで火をつけて問題にしてしまうその特殊能力は、すでに加藤の問題意識をも大いに刺激しており、番組内に謎の試みを2つ生み出している。
ひとつは、普通ならばアシスタントの女性やアナウンサーが読むであろう天気予報のコーナーを、ケンコバに読ませるという試みである。それだけなら単に「いい声だが不慣れ」というだけなのだが、そこで加藤の「天気予報だって、感情を込めて読んだほうがいいのではないか?」という不可解な問題意識が発動したことにより、適度にエモーショナルに、しかしあざとくなりすぎない程度にという加藤の指導を受けながら、毎週ケンコバは極度のプレッシャーのもと天気予報読みに励んでいる。
もうひとつの試みは、20時台ラストの挨拶の場面である。『Wanted!!』は、TBSラジオでは22時までの2時間番組だが、それ以外のネット局では21時までの放送となっている。つまり20時台の最後には、TBS以外で聴いている人にはお別れを、TBSで聴いている人にはまだ続きがあることを同時に伝えなければならないという難しさがある。そこにただならぬ問題を感じた加藤は、その2つの情報をどうしても的確に伝えなければならないという出所不明の使命感から、ケンコバとの掛け合いで挨拶をするという斬新な手法を編み出し、加藤「TBSラジオ以外でお聴きのみなさん、来週までさようなら」、ケンコバ「まだまだーッ!」という、至極わかりづらい挨拶が毎週繰り出されることになった。
実にくだらない試みではあるが、これもすべて加藤浩次の強い問題意識のなせる業である。これぞ「聖域なき改革」である。そしてリスナーは、意外とこういった細かい工夫を楽しみに聴いており、尻尾まであんこを詰めてくれる鯛焼き屋を信用するように、「こんな隅っこまで面白いなら、本編はもっと面白いに違いない」と確信する。そしてその確信は、この番組に関しては裏切られることはない。残念ながら番組は3月に終了することが予め決まっているが、ぜひこの2人のコンビネーションを、4月以降もなんらかの形で聴かせてほしいと願う。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)
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