苦笑、失笑、ニヤニヤが止まらない! 鉄道マニア垂涎の駅舎本『珍駅巡礼』の続編は“私鉄編”
#本 #鉄道
「本当にバカだよな~」と思う。「なんでこうなっちゃうんだろ?」と思わずにはいられない不思議なものや、「地域活性化」の名のもとに地元の名産をモチーフにした残念な建築もある。『珍駅巡礼2 (私鉄篇)』(イカロス出版)をめくると、性格の悪いニヤニヤが止まらない。
2010年に発売された『珍駅巡礼』は、遮光器土偶が不気味に張りつく「JR五能線木造駅」の写真を堂々表紙に据え、「駅舎ヲタ」という新たなジャンルを提示したムックだ。『珍駅巡礼2 (私鉄篇)』はこの続編であり、全国津々浦々の私鉄珍駅200カ所以上を収録している。2011年5月からおよそ1年間をかけて撮影された、撮りおろしの珍駅ばかりがズラリと並ぶ様はまさに圧巻。
一口に「珍駅」といっても、その内容はさまざまだ。著者の西崎さいき氏がライフワークとして追いかける駅舎シリーズとして掲載されるのは、まるで宇宙船のような「北越急行ほくほく線 くびき駅」、くじら型の「近鉄名古屋線 近鉄富田駅」など。たま駅長で知られる「和歌山電鐵貴志川線 貴志駅」は、全国の愛猫家をうならせるネコ型の駅舎だ。また、女子高生が体育祭の時にのみ使用する「えちぜん鉄道三国芦原線 仁愛グランド前」駅、米軍関係者専用出口を備えた「京急逗子線 神武寺駅」などのレア駅、「YRP野比」「京コンピュータ前」「宮本武蔵」などの珍名駅が紹介され、コアな鉄道マニアをうならせる「珍ホーム」の解説にはマニアならずとも「へぇ」という感嘆の声を漏らしてしまうだろう。
西崎氏は、本書のまえがきで「JRはどの駅も管理・整備され、そこそこのクオリティを保っているが、私鉄は都心の駅のような近代的なものが多い反面、地方のローカル線ではいまにも壊れそうなボロボロの駅舎があったりと、驚くほどバラエティ豊かだ」と記す。JRに比べて経営規模の小さい私鉄は、全国的に厳しい経営を迫られている。ましてや、車社会がいちだんと進む地方のローカル私鉄では、客足は遠のくばかり。イベントや副業、観光需要の掘り起こしなど、あらゆる工夫によって収益を確保しなければ、路線のみならず、会社全体が存亡の危機にさらされてしまうのだ。一時期、名物のぬれ煎餅販売が話題となり経営危機を脱した銚子電鉄も先頃、経営の自主再建を断念することを発表した。
一方、たま駅長が勤務するネコ型駅舎「貴志駅」には全国から観光客が訪れ、その経済効果は10億円あまりと試算されている。かつて、貴志川線は廃線が検討されていたほど赤字路線だったものの、たま駅長とネコ型駅舎、そして地域住民の協力によってその危機を脱出。まさに、駅を起点として町おこしがなされた好例だ。この仕掛け人である和歌山電鐵小嶋光信社長は「日本一、世界一の駅舎が創れれば、むしろ再生のみならず、紀の川市や和歌山市、また和歌山県の観光の大きな資源としてプラスになる」と語った。その目論見どおり、今日も貴志駅には観光客が絶えることはない。
苦笑、失笑、ニヤニヤが止まらない本書。しかし、珍駅舎には地域を支える人々の真剣な思いが込められている。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
●にしざき・さいき
1965年岡山県生まれ。81年、高校入学時から駅舎撮影を始める。国鉄赤字路線の廃止予定駅を中心に撮影を進め、98年『国鉄・JR廃止駅写真集』を自費出版。2000年、ホームページ「さいきの駅舎訪問(http://ekisya.net/)」を開設。2006年、JR全駅訪問を達成し、ホームページ上にJR全駅の情報を掲載。現在、「ワンダーJAPAN」(三才ブックス)に「珍駅訪問」を連載中。ほか各媒体に駅舎画像提供多数。
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