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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.209

9.11テロの首謀者ビンラディン抹殺作戦の全貌! アメリカの夜明けは遠く『ゼロ・ダーク・サーティ』

zdt03.jpg2011年5月1日午前0時30分、ビンラディン捕縛作戦が実施。
パキスタンの市街地にある邸宅に米軍特殊部隊が強襲を掛ける。

 気が遠くなるような捜査を積み重ね、ようやくパキスタンの首都イスラマバード近郊にある町・アボッターバードに高い壁に囲われた不審な屋敷があることを突き止める。この屋敷の主人はいっさい屋外に出ようとしない。スパイ衛星にキャッチされることを避けているに違いない。ここまで徹底して身を隠す必要がある人間は非常に限られている。宿敵の隠れ家がようやく判明したのだ。それなのに、なぜ上層部は即行動に移さないのか? マヤはCIAテロ対策センターの責任者であるジョージ(マーク・ストロング)を逆パワハラ同然の行動で連日突き上げる。拷問を見て嘔吐していた女の子の面影はまるでない。もはやCIAにマヤをコントロールできる人間はいなかった。かくして屋敷の主人がビンラディンであるという確実な証拠がないまま、海軍の特殊部隊ネイビーシールズを投入した「海神の槍作戦」が実行される。

 マヤが見守る「海神の槍作戦」を再現した映像は、まるでスナッフフィルムでも観るかのようにまがまがしいリアリティーに満ちている。作戦が開始されたのは2011年5月1日、タイトルとなった午前0時30分。暗視カメラで撮影された映像の中、極秘開発されたステルス型ヘリコプター2機から降り立った特殊部隊の精鋭24名と爆発物探知訓練を受けた軍用犬が屋敷の中へと瞬く間に侵入していく。真夜中の侵入者に気が付いた男たち2人がまず射殺され、一緒にいた女性も犠牲となる。続いて、様子を見にきたビンラディンの息子も射殺。屋敷の1階を制圧した突入隊は2階にいたビンラディンの妻子たちを確保。3階へと逃げるビンラディンを追う。この日のために殺人トレーニングを積んできたプロたちの前では伝説のテロリストもあっけなかった。銃を持って反撃する暇もないまま胸と頭部を撃ち抜かれた。捕獲ではなく抹殺することが作戦の当初からの目的だった。作戦に要した時間はわずか38分。着陸時に損傷したヘリコプター1機を爆破処理して、24名の隊員と軍用犬は無傷のまま引き揚げた。事前に情報が漏れることを恐れ、パキスタン側には作戦のことはいっさい知らされなかった。他国に不法侵入しての軍事行動だったが、おおむね諸外国は世紀の大犯罪者を最小限の犠牲者で仕留めたオバマ政権を賞讃した。

 ネイビーシールズが持ち帰ったビンラディンの遺体とマヤは対面する。マヤを普通の女性から怪物へと変容させた相手は、すでに冷たいムクロとなっていた。マヤは念願のミッションをコンプリートし、同僚や同胞たちの仇を討つことに成功した。彼女は自分に与えられた困難な仕事を最後までやり抜いたのだ。通常のドラマなら、仕事を通した女性の成長ぶりに感銘を覚えるクライマックスなのだが、そこには感銘とは大きく異なるザラザラとした違和感だけが残る。長年の責務をやり終えた彼女を優しく出迎えてくれる家族は果たしているのだろうか。彼女には精神的な拠り所としている宗教はあるのだろうか。マヤに関する具体的な家族構成や生い立ち、宗教観は最後まで明かされない。彼女を特定するような情報があると、報復の手掛かりとなってしまうからだ。伝説のテロリストは莫大な予算と多大な犠牲者を伴うことで抹消された。だが、テロの火がこの世界から消えることはない。
(文=長野辰次)

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『ゼロ・ダーク・サーティ』
脚本/マーク・ボール 監督/キャスリン・ビグロー 出演/ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン 
配給/ギャガ 2月15日(金)よりTOHOシネマズ有楽町ほか全国公開 
Jonathan Olley(c)2012 CTMG. All rights reserved.
<http://zdt.gaga.ne.jp>

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