チェルノブイリ“立ち入り制限区域”で撮影敢行! オルガ・キュリレンコ主演の社会派作品『故郷よ』
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オルガ・キュリレンコ主演の『故郷よ』。幸福な結婚式の最中に
原発事故の第一報が知らされる。
プリピチャという街をご存知だろうか。ウクライナ北部にあるプリピチャは人口5万人ながら、平均年齢26歳で出生率の高い活気ある街だった。高層マンションに近代的な病院、劇場、学校が並び、開業を間近に控えていた遊園地には街のランドマークのような観覧車が建てられていた。その観覧車からは豊かな自然に囲まれた美しい街並を見渡すことができた。だが、この遊園地は一度も開業しないまま閉鎖されてしまう。プリピチャの駅も路線図から消されてしまった。1986年4月26日、プリピチャから3km先にあるチェルノブイリ原発で事故が起きたからだ。チェルノブイリ原発から30km圏内は“ゾーン”と呼ばれる立ち入り制限区域となり、全住民の退去が命じられた。プリピチャの街全体がゴーストタウン化してしまった。『007/慰めの報酬』(08)でタフなボンドガールを演じて人気を博したオルガ・キュリレンコ主演の『故郷よ』は、プリピチャを舞台にした物語だ。事故後もプリピチャに残り、現地の観光ガイドを務める女性の哀しい現実と事故当日までの愛と希望に溢れていた日々が描かれている。ゾーン内で初めて撮影された劇映画としても注目されている。
『故郷よ』は華やかな結婚式が物語序盤を彩る。純白のドレスを着た美しい花嫁のアーニャ(オルガ・キュリレンコ)と精悍な花婿のピョートル(ニキータ・エムシャノフ)を取り囲むように両家の家族や友人たちが集まり、造営されたばかりの遊園地の広場で記念写真を撮影している。一点の曇りもない幸せな光景だ。写真撮影中に急にどしゃぶりの雨が降ってきた。ドレス姿のアーニャはびしょ濡れになるが、愛するピョートルがいれば平気だった。アーニャが当時の大ヒット曲『百万本のバラ』を歌い、祝福ムードで満たされる披露宴会場。ところが宴の途中、ピョートルは仕事に出掛けると言い始めた。山火事が起き、消防士であるピョートルも消火活動に向かうことになったのだ。「今日だけは休んで」と懇願するアーニャを振り切って、ピョートルは現場へと急ぐ。アーニャがピョートルの姿を見たのは、それっきりだった。ピョートルが向かった先はチェルノブイリ原発の事故現場だった。
初夜を迎えることなく未亡人となったアーニャは、原発事故後もプリピチャに残った。住民たちはみんな強制退去を命じられたが、アーニャは街から離れられずにいる。廃墟と化した街並の中にピョートルの面影を探している。事故から10年の歳月が経ち、アーニャはチェルノブイリ原発事故の跡を見学して回るチェルノブイリツアーのガイドとして生計を立てている。アーニャによると、ツアーに参加している客たちはみんな「奇形化した動物たちを見たがっているだけ」だそうだ。そんな客たちを引率してアーニャは思い出の遊園地跡や石棺化作業に従事する労働者たちが利用する発電所の社員食堂などを毎日同じように巡っていく。アーニャの中ではあの日から時間が止まってしまったままだ。
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