チェルノブイリ“立ち入り制限区域”で撮影敢行! オルガ・キュリレンコ主演の社会派作品『故郷よ』
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白い防護服を着た軍人たちがまったく説明のないまま清浄作業を始めた。
すでに涙は乾き切ってしまったアーニャだが、その瞳には様々なものが映る。退去命令後もずっと現地で暮らし続けている森林警備員のニコライ(ヴャチェスラフ・スランコ)は「5年で死ぬ」と診断されたが、地元産のリンゴを食べながら森の中で元気そうに暮らしている。無人化していた家屋には、タジキスタンから内戦を逃れてきた難民の家族がいつしか住みつくようになっていた。汚染された土地であっても、戦火の中を逃げ惑う恐怖に比べれば平穏極まりない土地なのだ。今も美貌をキープしているアーニャに言い寄ってくる男たちは多い。パトリック(ニコラ・ヴァンズィッキ)はベッドでの情事の後、「ここを離れて、フランスで暮らそう」と優しく申し出てくれる。でも、アーニャの虚ろな心にはまるで響かない。忘れ去られた遊園地の観覧車のように、哀しみを堪え続けてきたアーニャの心はぴくりとも動かなくなってしまった。
本作を撮ったのはフランス在住のミハル・ボガニム監督。イスラエル生まれの女性監督だが、戦乱から逃れるために幼少期にフランスに移り住んだ経歴を持つ。「自分には故郷と呼べる場所がない。だから、強制退去を命じられて故郷から引き離されたプリピチャの人たちとプリピチャという街に惹かれたのだと思う」と話す。ヒロインのアーニャをウクライナ出身の国際派女優オルガ・キュリレンコが演じているが、出演を熱望してきたオルガの申し出に対してミハル監督は当初は躊躇したと言う。
「ひとつにはオルガが美し過ぎるから(笑)。小さな街で暮らす女性の役には合わないと思った。もうひとつ出演を即OKしなかった理由は、彼女が『007』シリーズでボンドガールを演じていたことは知っていましたが、フランスでは彼女は女優としては評価されてなかったんです。アクション映画のお色気要員だろう、くらいにしか認識されてなかったんです。でも、彼女はオーディションを受けに来て、いちばん印象に残る演技を見せ、誰よりも熱意を感じさせました。『故郷よ』がフランスで公開され、彼女の女優としての評価はずいぶんと変わりました」。
オルガ・キュリレンコをはじめとするキャストやメーンスタッフは本作のテーマを充分に理解して撮影に臨んだが、ゾーン内での撮影はやはり困難を極めた。1日の撮影時間が制限されており、持ち込む機材や資材も規制されていた。ゾーン内で寝泊まりすることはできず、毎日30km圏外にある宿舎まで雪道の中を往復した。そして、何よりもウクライナ当局から脚本内容について厳しい検閲が入った。そのため撮影許可が降りるよう、ニセの脚本を用意して提出したそうだ。このニセの脚本について尋ねると、よほど不本意な行為だったのだろう、ミハル監督は首を振りながら言葉短めに答えてくれた。
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