違和感ではなく、共感を拾い集めたい――メディアが報じない「北朝鮮の日常」
写真集『隣人。38度線の北』(徳間書店)は、写真家の初沢亜利が2009年から3年間にわたって北朝鮮を取材した記録だ。しかし、平壌をはじめ新義州や咸興などの地方部まで撮影した本書をめくってみると、どこか違和感が生まれる。テーマパークで無邪気に遊ぶ人々や、マラソン大会に参加するランナー、海水浴を楽しむ人々……。人民服を着た軍人すらも、あっけらかんとした笑顔で写っている。
多くの日本人がイメージする「北朝鮮」とは、スタジアムで一糸乱れぬマスゲームを披露する姿や、重苦しく垂れこめた曇り空の下で貧困と圧政に苦しむ人々だった。だからこそ、北朝鮮とは“悪い国”であり、イラン、イラクとともに「悪の枢軸」として認定されたはずだった。
僕たちがこれまでテレビのニュースで見てきた「北朝鮮」とは、一体なんだったのだろうか? 初沢氏の写真は、無言でこの問いを突きつけてくる――。
■北朝鮮を取り巻く状況
――『隣人~』は、北朝鮮をモチーフにした写真集の中でも、かなり異質な仕上がりなのではないかと感じました。この作品に迫るにあたり、まず、初沢さんが北朝鮮に興味を持ったきっかけを教えてください。
初沢亜利(以下、初沢) 北朝鮮に興味を持ったのは、写真家であるからというわけではなく、拉致問題などの報道に触れ、市民感覚として芽生えたものでした。ただ、写真家としてメディアで仕事をしている立場から、報道の方向性やその意図を推し量りながら見る部分もあります。当時は、反北朝鮮ナショナリズムを盛り上げることで、「救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)」や「拉致議連(北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟)」といった組織の利害に流れが傾き、拉致被害者やその家族が蚊帳の外の状態だったんです。
――特に、2000年代の初めから中盤は、ナショナリズムを煽る北朝鮮報道が多かった記憶があります。
初沢 拉致被害者の家族も高齢化してきており、そろそろ対北朝鮮姿勢を見直さなければならない。それにもかかわらず、強硬路線一辺倒では日朝関係が動くこともなく、安全保障上の脅威も高まったままです。この状況で写真家として何ができるかを考え、2010年から4回にわたって北朝鮮を訪れました。
――一般に、北朝鮮では自由に撮影できないというイメージがあります。北朝鮮が用意した2人の案内人に監視されながら、初沢さんは不自由なく撮影できたのでしょうか?
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