ANA、“威信をかけた”ボーイング787トラブルで大誤算…なぜJALと明暗分かれた?
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ANA、“威信をかけた”ボーイング787トラブルで大誤算…なぜJALと明暗分かれた? – Business Journal(1月30日)
(「Wikipedia」より)
世界に先駆けて2011年11月に日本で就航した、ボーイング社・787型機(以下、787)。世界の航空会社から高い期待が寄せられていた最新鋭機に、トラブルが相次いでいる。
12年12月には、米ユナイテッド航空やカタール航空の787でトラブルが発生。今年1月7日には、ボストン・ローガン国際空港に駐機中の日本航空(JAL)機で、補助動力装置のバッテリーから発火するトラブルが発生した。そして1月16日、山口宇部発羽田行きの全日本空輸(ANA)機の機内で発煙し、高松空港に緊急着陸するという重大インシデントが発生した。
当初は「787の安全性を信じている」としていた米連邦航空局(FAA)も「緊急耐空性改善命令」を出し、1月16日、各航空各社に対して787の運航を当分見合わせるように命じた。国土交通省も運航停止命令を出し、同省とFAAは共同で原因究明を続けているが、調査は難航し、運航再開のめどは立っていない。
787は、大幅な燃費改善による航続距離の延長を目指し、新しいシステムや最先端の技術を駆使して、従来機を2割も上回る燃料効率化を達成している。また、軽量化を追及して電気化された787は、従来の飛行機よりも数倍の電気が必要となっており、世界で初めて航空機にニッケルカドミニウム電池に代わりリチウムイオン電池を搭載した。だが、「この軽量化に伴う大幅な変更設計が、今回起こっているトラブルにつながっているのではないか?」とも懸念されている。
●国交省からの命令前に、自主的に運航停止を決めたJALとANAの英断
この787は、2004年にANAが50機を発注したことにより開発が始まった。ローンチカスタマー(ファーストユーザー)となったANAへの引き渡しは、08年5月の予定だったが、度重なるトラブルのため7回にわたって延期され、11年9月、ようやく初号機が引き渡された。
そして11年10月、成田ー香港間で世界初の商業運航を行い、翌11月からは定期便として就航した。ANAへの納入から約半年遅れの12年3月には、JALへの引き渡しも始まった。
ある航空業界関係者A氏は、「今回のトラブルも、今までのような燃料漏れ等、初期トラブルの範囲のものだと思っていたのですが」と前置きし、次のように語っている。
「ANA機から乗客が緊急脱出シューターを使って脱出している映像は、ショッキングでした。機体にも大きく『787』と装飾されていたように、ANAは大量の宣伝費を使って787をPRしてきましたが、水の泡となってしまいました」
国交省は、米運輸安全委員会(NTSB)、FAA、ボーイング社と合同で原因究明調査を進める中で、1月21日から、バッテリーの製造元であるGSユアサ・コーポレーションに立入検査を開始し、トラブルを起こした787のバッテリーを宇宙航空開発研究機構(JAXA)でCTスキャンし解析するなど、バッテリーを中心に調査を進めている。これは、1月7日にJAL787で発生した火災の出火元が補助動力装置(APU)用バッテリーだったためだ。
A氏によれば、「航空会社は、自国に限らず飛行機事故やトラブルが起きたとき、どの航空会社が起こしたのかよりも、どの型式の飛行機かということを真っ先に気にかける」という。実際にANAとJALは、緊急点検のため787の運航中止を自主的に決めた。この自主的な運航中止決定について、A氏は次のように評価する。
「機体に絶対的な安全性を確認できないから運航を停止するわけですが、運航を停止すれば、その分経営に大きな影響をおよぼすわけですから、普通ではなかなか決断できません。ANA・JAL両社ともに英断だったと思います。それに、国交省やFAAから命令される前に決断したのもよかったと思います」
事実、その後、FAAと国交省はリチウムイオンバッテリーの安全性が確認できるまで運航停止を命令し、ボーイングはFAAの運航停止命令が解除されるまで引き渡しをしないと発表した。世界中の航空会社が保有する50機の787のすべてが、運航を取りやめている。
●長期化が予想される運航停止
では、FAAの運航停止命令は、いつ頃解除される見通しなのか?
「ボーイング社も、最初はこれほどの問題にならないと高をくくっていたようで、強気の発言をしていましたが、運航停止という命令が出された途端、調査に全面的に協力するという方針に切り替えたようです。今さらですが、航空会社が自主的に運航停止を決めたときに、ボーイングが、『今回のトラブルの原因はこれで、こういう対応をすれば大丈夫だ』と言い切れば、これほど大きな騒ぎにはならなかったかもしれません。FAAが運航停止命令を出した以上、きちんと原因の解明とそれに対応する措置をとらない限り、解除にはならないでしょうね」(航空業界関係者・B氏)
別の業界関係者・C氏も、最悪の場合、運航再開まで1年以上かかる可能性もあるという。
「飛行機の事故調査は、旅客機の使い方が悪かったのではないか? つまり航空会社に過失があったのではないか? あるいは、組み立て工程に不具合があったのではないか? 部品に欠陥があるのではないか? という観点で調査するのが一般的です。今回のケースでは、バッテリーだけの問題なのか、あるいは電源システムの問題なのかによって、問題解決に要する時間が違います。電源システム全体の見直しが必要ということになれば、1年程度かかることも覚悟したほうがいい」(航空業界関係者・C氏)
それにしても高い技術水準を誇る787で、これほどトラブルが起こることは予想されていたのだろうか?
ある航空技術者は、「新造機というのは初期トラブルが多いもの。特に今回の787はまったく新しい構造の旅客機なので、ある程度トラブルが起きることは想定されていました」という。
前出のA氏の次のように話す。
「旅客機を買うときには、就航して1年以上たってからにすべきです。例えば、今では世界のベストセラー機になっているボーイング社の777は、米ユナイテッド航空がローンチカスタマーで、本当に初期トラブルの多い飛行機でした。ANAも、ある程度はそういったリスクを覚悟していたのでしょうが、まさか運航停止にまでなるとは思っていなかったでしょう」
●ANAは大量欠航へ
この787は、現在、世界に約50機出荷されているが、その約半分を日本勢が占める(ANAが17機、JALが7機を保有)。よって、今回の運航停止で、ANA、JALそれぞれに影響が出ている。
ANAは事故当日の1月16日以降、787を使用する全便が運休。国内線と国際線合わせて2月は計379便に及ぶ欠航予定だと発表している。JALは787をボストンやサンディゴなどの国際線のみに就航させていたため、日替わりで1日1往復程度の欠航となっている。
運航停止が長期化すれば、影響は拡大することになるだろう。各航空会社は世界規模で機体、パイロット、整備士の再配置を行うことが必要になるためだ。前出のC氏は、次のように大変さを話す。
「パイロットや整備士は機種ごとにライセンスが必要なため、人の工面とかも大変ですよ。今のところは対応できていますが、運航停止が長引けば長引くほど影響が大きくなってくるでしょうね」
●ローンチカスタマー・ANAの誤算
前述した通り、新しい機種は初期トラブルを起こすリスクが高い。では、なぜANAは787のローンチカスタマーとなったのだろうか?
「知名度向上を狙ったからです。 ANAは国際的には、JALに比べて知名度は低い。今回、最新鋭の787のローンチカスタマーとなることで話題を呼び、知名度やブランド力を高めたかったのでしょう。ところが脱出シーンが世界中のテレビで繰り返し放送されたことで、逆に危険な航空会社というイメージが広まってしまいました。加えて、機体全体の約35%の部品製造を日本企業が請け負っており、『日本のものづくり+日本の航空会社』ということで、利用客増の呼び水になるのではとANAは大きな期待を寄せていた模様です。結果的に、今のところはそれがアダとなってしまった格好です」(B氏)
一方、ここ数年ライバルのエアバスに納入機数で後塵を拝してきたボーイングにとっても痛手だ。787の受注残は約800機もあり、12年の納入機数で10年ぶりにエアバスを上回ったが、今回のトラブルで冷や水を浴びせられる格好となった。
ANA、JALともに事業戦略の修正を迫られる可能性も出てくるとの報道もあるが、両社の経営に与える影響はあるのか?
「運航停止が長引けば、航空会社には大きな損失が発生します。その費用の補償については、各航空会社とボーイング社の契約で取り決められ、守秘義務があるのでうかがい知れませんが、最終的にはメーカーであるボーイング社が負担することになっている可能性も高いです。そうなっていれば、長期的に見れば、航空会社が大きな損失を受けるといった事態にはならないでしょう」(C氏)
いずれにしろ、“Dreamliner”の愛称を持つ787は、日本の航空会社、部品メーカー、そして旅客機利用者に、悪い夢を見せてくれた。
(文=編集部)
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