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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 松岡修造の“ねじれ”が炸裂?
ラジオ批評「逆にラジオ」第14回

「日本一熱い男」の変幻自在な文体に、聴き手も本人もキリキリ舞い『松岡修造のオールナイトニッポンGOLD』

shuzomatsuoka.jpg「それでも信じてる/ラブレター」(Dreamusic)

しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。

 松岡修造といえば、紛うかたなき「天然」である。ただし生粋の天然キャラでありながら、一方では明確な目標に向かって地道なトレーニングを重ねてきた「努力の人」でもあるというところに、ほかの天然キャラとは違う彼の決定的な「ねじれ」がある。こういう極端な「ねじれ」は、特にラジオにおけるひとりしゃべりのような自由な空間では、想定外の面白さを生み出すことが多い。生み出すというよりは、「露呈する」といったほうが正しいかもしれないが。1月18日に放送された『松岡修造のオールナイトニッポンGOLD』(ニッポン放送 22:00~23:50)は、まさにそんな修造の持つ独特の「ねじれ」がところどころ炸裂する番組であった。

 「天然」の面白さの第一は、まず何よりもその言動の意外性にあるが、ラジオパーソナリティー初挑戦となる修造は、確かにこの番組を意外な言葉で起動させた。

「緊張で手が凍ってる……」

 思いがけず弱気なスタートだった。ちなみに番組が掲げたテーマは、「目標に向かってガンバレル秘訣、心技体」という、この上なく熱く前向きなものであるのにもかかわらず、である。だが、すっかり肩すかしを食った気分になるかと思いきや、なぜか彼が弱気な発言をすると、聴いてるこっちはむしろ安心感を覚え、勇気すら湧くから不思議だ。この言葉は聴き手側にも明らかに、何らかの「ねじれ」を生じさせていた。だが修造は、そんなリスナーの安堵感を先読みして、「ふざけんじゃねえよ!」と突如、その弱気な流れをぶち壊しにかかる。一寸先も読めぬフリートークの幕開けである。

 もちろん修造の「ねじれ」は、この程度では止まらない。怒りを露わにしたその直後には、「僕のことを、いつも前向きでどんなことにも熱い人だと思ってんじゃないっすか? 殺菌してなんでもやっちゃう人だと思ってんじゃないっすか?」と、怒りの理由を並べたてる中にこっそり「自分が最近はもっぱら『ファブリーズの人』だと思われている」ということを匂わせる「殺菌してなんでもやっちゃう人」という自虐的な笑いを冷静に放り込んでくるこの狡猾さ。やはりこの男、単なる「天然」ではない。

 とはいえ、本業であるテニスの話になると一転、修造は非常に冷静かつ論理的な語り口になる。しかし、そのテニス語りが佳境に入ってきたあたりで修造はふと我に返り、「僕のこの鼻声、わかってくれてないでしょ」と、実は自分がいま風邪をひいていることを唐突に告白しはじめる。ちょっとでも油断すると、聴き手はこの急激な視点変更に危うく置いてけぼりを食らいそうになる。そして、さんざん風邪の話をした挙げ句、「だけど今日の目標は、言い訳をしないってことだから」と臆面もなく逆サイドに切り返してくるアクロバティックな展開。

 そう、修造の話が面白いのは、まさにこの「切り返し」の瞬間が頻繁に訪れるからで、それは、彼が愛し続けてきたテニスというスポーツに似ている。急に弱気になったり強気になったり、感覚的になったり理論的になったり、右だといった直後に左だといったり、そういう反復横跳び的な「切り返し」が、そしてラリーのごとく頻繁に両極を往来する運動が、修造の脳内では常に繰り返されているのである。

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