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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.207

“明るい不登校児”のガラパゴスな団地ライフ! 中村義洋監督の箱庭映画『みなさん、さようなら』

minasan_sayonara02.jpg年ごろになった悟は幼なじみの松島(波瑠)とペッティングし合う関係に。
中学、高校、大学、社会人と演じ分けた波瑠の変身ぶりだけでも観る価値あり。

 悟は有言実行の男だ。『空手バカ一代』のモデルである大山倍達に憧れ、空手教本『100万人の空手』(講談社)を読んで男を磨く。ひとり稽古を積み重ね、親指立て伏せを目指す。その一方では、隣に住む幼なじみの松島(波瑠)と親の目を盗んで初エッチを経験。狭い一室の中に甘い吐息が漏れる。さらには団地内の集会所で開かれた小学校の同窓会で再会した憧れの美少女・早紀(倉科カナ)へ一直線にラブアタック。初セックス&婚約に漕ぎ着けた。看護士のひーさんが夜勤でいない日は、悟と早紀は一晩中愛し合う。団地内に引きこもりながら、羨ましいセックスライフを送る悟。15歳から働き始めた「タイジロンヌ」では師匠(ベンガル)に鍛えられ、ケーキ職人としてなかなかの腕前になってきた。団地内で暮らしていても、悟の人生はとても充実している。

 女手ひとつで育ててくれた母親のひーさん、団地内の保育園で働く婚約者の早紀、小学校のときのあだ名が“オカマラス”だった気の優しい不登校仲間の薗田(永山絢斗)らに囲まれ、幸せいっぱいの悟。遠く離れた職場まで満員電車に毎日詰め込まれてヘロヘロになりながら働くよりも、時間的にも精神的にも余裕のある生活を送っている。同じ団地で生まれ育った小学校時代の同級生であるみんなが、今日も元気に暮らしているのか、何を考えながら生きているのか悟は気になってしかたない。毎晩せっせと薗田と団地内をパトロールし、同級生たちの部屋にちゃんと灯りが点いているのか確かめないと気が済まない。ところが、同級生たちは悟のそんな想いをスルーして、高校や大学進学、就職をきっかけにどんどん団地から出ていってしまう。悟と早紀が婚約した23歳のときには、100人以上いた同級生たちが三分の一に減ってしまった。会社勤めを始めた松島も団地に帰ってこない日が多くなってきた。かつては輝いていた団地ライフが、いつしか時代が移り変わり、何となくダサいものへと変容していたのだ。誰よりも団地を愛する悟は、そのことが我慢ならない。

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