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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.205

石原慎太郎原作の異色ミステリー『青木ヶ原』ままならない人生の中で出会った恋人たちの行方

aokigahara2.jpg溶岩流の上にできた富士の樹海は磁性が強く、氷穴や風穴がところどころにある神秘的な空間。
この世とあの世の緩衝帯で、村松たちは何を見たのか?

 樹海で発見される遺体には、ある傾向があるそうだ。ほとんどの遺体は道路からそれほど離れていない場所で見つかっている。多くの場合は遺書を残していない。どうやら、樹海に足を踏み入れた自殺志願者たちの多くはギリギリまで死ぬか生きるか迷い続け、そのため遺書も用意できず、人目に付きやすいところ、救出されやすいところで息を引きっているらしい。多分、自殺を考えたものの直前で思い直して引き返す人も多いのだろう。主人公たちはそう推測する。孤独に死ぬことを選択した人たちが集まる“自殺の名所”は、実はもっと生きたいと願い、「自殺なんてバカなことはやめろ」と言葉を掛けてほしがっている人たちが足を停める最後の緩衝帯ではないのかと逆説的な視点が小説には盛り込まれている。

 小説は捜索前夜のバーでの“自殺談義”と翌日の捜索現場で起きた不思議な体験までを描いた2日間の物語だったが、映画ではその後日談が続く。富士山麓の忍野村でペンションを営む村松(勝野洋)は樹海の一斉捜索で中年男性(矢柴俊博)の遺体を見つける。遺体は地元で火葬されるが、村松の視界に人の良さそうなあの中年男性の姿が度々入ってくる。そのことを相談した寺の住職(津川雅彦)に「何か頼みたいことがあるんだろう」と言われ、気になった村松は中年男性の身元を調べ始める。男性は滝本という名前で、東京の老舗紙問屋の若旦那だった。経済的に恵まれ、熱愛のすえに結婚した妻(長谷川真弓)と育ち盛りの息子もいた。村松は遺族に滝本が樹海で見つかったことを伝えにいくが、遺族側は遺骨の引き取りを拒否する。さらに生前の滝本と交流のあった知人を訪ねると、滝本には若い恋人・純子(前田亜希)がいたことが分かる。純子は今どうしているのか? 滝本はなぜひとりで息を引き取ったのか? 妻子持ちの中年男には、ままならないラブロマンスがあったことが浮かび上がってくる。

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