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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.205

石原慎太郎原作の異色ミステリー『青木ヶ原』ままならない人生の中で出会った恋人たちの行方

aokigahara1.jpg毎年100体前後の遺体が見つかる富士の樹海を舞台にした『青木ヶ原』。
遺体捜索のボランティアに参加した村松(勝野洋)の奇妙な体験が描かれる。

 光と影は常に表裏一体の関係にある。霊峰として崇められる富士山だが、すそ野に広がる樹海は自殺の名所となっている。多くの人が富士山に向かって幸せを祈る一方、樹海には人知れず息を引き取った身元不明者たちの遺体が眠っている。映画『青木ヶ原』はそんな自殺の名所として知られる富士の樹海をめぐる異色ミステリーだ。若き特攻隊員たちを主人公にした『俺は、君のためにこそ死ににいく』(07)で賛否を呼んだ石原慎太郎(原作・企画)&新城卓(製作・脚本・監督)コンビが5年ぶりにタッグを組んでいる。前作『俺は、君のために−』は愛する者を守るため、お国のために命を投げ出した若者たちの実録ドラマだったが、本作は愛するものもなく、自分の生まれ育った国に居場所を見つけることができずにいる現代人たちの寄る辺なきファンタジーとなっている。

 80歳にして国政に復帰し、精力的な日々を送る石原慎太郎氏が2000年に発表した同名短編小説が原作。かつて秋の恒例行事となっていた青木ヶ原の遺体一斉捜索にボランティアスタッフとして参加した地元男性が体験する奇妙なエピソードが綴られている。小説は、翌日に遺体捜索を控えた主人公が行き着ける地元のバーが主舞台。主人公はバーの客やバーテンダーを相手に、樹海での遺体捜索がいかに大変な作業であるかを愚痴り続ける。『完全自殺マニュアル』などのベストセラー本に煽られて、樹海で発見される遺体が一気に倍増したこと。全国各地から安らかな眠りを求めて自殺志願者たちが樹海に向かうが、見つかった遺体は悲惨さを極めていること。鳥によって目玉を突かれ、野犬、タヌキ、キツネら野生動物によって体が中途半端に喰いちぎられているそうだ。遺体捜索中、自分が遺体の第一発見者にならずに済むと「ラッキー」と感じるらしい。年々遺体は増え続け、ほとんどの遺体は引き取り手が現われないため、地元のお寺では納骨堂を拡張せざるを得なくなったともいう。

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