テレビ・ウォッチャーてれびのスキマが選ぶ、2012年ドラマベスト3
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「土を汚され、水を汚され、病に侵され、この土地にももはや住めない可能性だってあるけれど、でも商品券もくれたし、誠意も絆も感じられた。(略)これで土地も水も甦るんでしょう。病気も治るんでしょう。工場は汚染物質を垂れ流し続けるけれど、きっともう問題は起こらないんでしょう。だって絆があるから!」「誰にも責任を取らせず、見たくないものを見ず、みんな仲良しで暮らしていければ楽でしょう。しかしもし、誇りある生き方を取り戻したいのなら、見たくない現実を見なければならない。深い傷を負う覚悟で前に進まなければならない。戦うということはそういうことだ!」
彼らのやりとりに「原発」などの問題を想起させるのは容易だ。でもそれだけではない。思い当たることは僕らの心の中に無数にある。だから彼の毒舌は痛いし響く。「絆」などという言葉がもてはやされ消費され続けていた震災以降。その欺瞞を裁いた本作は、2012年の今まさに作られるべき作品だった。
■朝ドラ史上最高傑作『カーネーション』
コシノ三姉妹の母・小篠綾子をモデルにしたヒロイン糸子を演じた尾野真千子をはじめとする役者陣の熱演、渡辺あやの緻密で丁寧な脚本、そして繊細かつ大胆な演出。それぞれがかみ合って、ある到達点に達したクオリティを見せ、各所で絶賛された『カーネーション』。冒頭に爆笑するシーンがあったと思ったら、その数分後には、激しく涙腺を攻撃され、号泣することになる。わずか15分の時間に喜怒哀楽が濃縮されていたのだ。「清く」も「正しく」もないヒロインは激しい業と矛盾を抱えていた。いや、登場人物が脇役に至るまで、そういった多面的な人物造形が貫かれていた。よく「映画的」などと賞賛されたこの作品は、むしろ「連ドラ」的としか言いようがない醍醐味にあふれていた。長く見た者だけが味わえるカタルシスが、随所にちりばめられていたのだ。
そして『カーネーション』が独特だったのは、その「死」の描き方だ。糸子の生涯を描いた本作では、多くの人たちの「死」が描写された。しかし、そんな物語のひとつのクライマックスともいえるシーンを直接的には描かない。劇的な瞬間を映像として見せることはほとんどない。におわすだけだ。その省略によって、僕らの想像力に委ねている。それがより一層物語を豊かにし、感情を揺さぶったのだ。
「死んだだけで、なーんもなくさへん。決めたもん勝ちや。うちは宝抱えて生きていくよって」
と、「死」を単純に悲劇にしなかった。
そして、その極めつきはヒロイン糸子自身の「死」だ。最終回の「おはようございます。死にました」というあっけらかんとしたモノローグが、それを象徴している。「死」に対する恐怖と苦しみを、フィクションの力で解放したのだ。『カーネーション』は見た人たちの記憶に「宝」として残るような、「朝ドラ史上最高傑作」と呼ぶにふさわしい作品だった。
■総評~2013年へと続く、ドラマの可能性~
ベスト3に挙げた作品以外にも秀作は多かった。たとえば久々に“大河”らしい本格派な大河ドラマだった『平清盛』、是枝裕和や入江悠といった映画畑の監督が脚本・演出を務めた『ゴーイングマイホーム』(フジテレビ系)や『クローバー』(テレビ東京系)、湊かなえが脚本を務め入試前日と入試当日というわずか2日間を舞台にしたミステリー『高校入試』(フジテレビ系)、“月9”という枠組みの中、小栗旬と石原さとみの魅力を最大限見せつけた『リッチマン、プアウーマン』(同)、菜々緒の現実離れした存在感を逆手に取り、ギャグ漫画を見事にドラマとして昇華させた『主に泣いてます』(同)、子役全盛の昨今のドラマ界を逆に子役を集結させることで皮肉りつつ楽しんだ『コドモ警察』(TBS系)などなど「異色作」と呼ばれそうな作品が数多く作られた。それらのほとんどは“ながら見”ではその魅力が伝わらないものばかりで、視聴者をバカにせず、作り手自身が面白いと思っているものを真摯に作り上げたものだった。その結果、視聴率は芳しくはなかったが、テレビドラマが持つ豊かさと可能性を雄弁に物語った年だった。
(文=てれびのスキマ<http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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