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ラジオ批評「逆にラジオ」特別編

おぎやはぎ小木のAKB批判は、ラジオの優れた伝達能力を証明した!? ラジオ事件簿2012

 だが、そもそもこの小木の怒りというのは、本気の怒りではなかった。番組内でそれ以前からやっている「努力は必ず報われる!」という、まさに高橋の言葉をモチーフにしたコーナー内での発言であり、そこでの小木は毎度、世の中にはびこる無闇にポジティブな言葉に対し、手厳しく反論する役割を求められる。もちろん本音も含まれているにしろ、いわばそのコーナーが丸ごとコントであって、本気のテンションでAKB批判を展開したわけではない。それはラジオという、声のトーンが伝わるメディアであれば誰しもわかるはずのニュアンスなのだが、それがネット上のプレーンな活字を通じて伝染したがゆえに、あたかも深刻な発言であるかのように広まってしまった。逆にいえば、ラジオがいかにニュアンスとユーモアの伝達能力に優れているかという事実を、図らずも見事に証明した事件ともいえる。

■総評~ラジオの長所とは何か~

 ラジオに限らずテレビも映画もゲームも小説も、今あらゆるエンタテインメントが、「今すぐ売れる即戦力の確保」と「将来性ある人材の発掘と育成」の狭間で苦しみもがいている。その象徴となる動きが、今年のラジオ界でいえば、TBSラジオに聴取率トップの座を奪われて久しいニッポン放送の挑戦と迷走だった。挑戦には常にリスクが伴うことを考えれば、その勇気には拍手を送りたいが、やはりそれ以前に、ラジオの長所とは何かということをいま一度考え直す時期なのではないかと思う。

 ラジオは単に、有名人がテレビの裏話をこれ見よがしに披露するだけの場所ではない。テレビを補完するためにラジオがあるのではなく、そもそも歴史的に見て、テレビの前にラジオがあったのである。ラジオには、テレビでの復帰が思いのほかスムーズに行かずくすぶっていたアンタッチャブル柴田にチャンスを与える器の大きさがあり、遠ざかっていた二人を一瞬にして和解させる本音吐露の磁場がある。たったひと言で大騒動を巻き起こす伝播力があり、是々非々で意見をぶつけられる自由も、批判的意見を温度のある笑いでくるんで伝える優しさもある。昨年は皮肉にも、震災によってラジオの力が見直されることになったが、そういった情報装置としての価値だけでなく、エンタテインメントとしてのラジオの力を、あらためて体感した2012年だった。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

「逆にラジオ」過去記事はこちらから

最終更新:2012/12/30 10:00
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