お笑い評論家・ラリー遠田が見た『THE MANZAI 2012』徹底批評!
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ただ、神田はそんな浜谷に対しても臆することなく、堂々と持論を貫く。そして、「浜谷のほうが腕力があるんだから、自分の荷物を持ってほしい」ということを提案した神田に対して、浜谷が反論する。
「じゃあいいよ! 俺、『腕力』優れてるからお前の荷物持ってやるよ。その代わり、お前は俺に金をよこせ! お前のほうが『財力』優れてるんだからよ!」
これは、理屈としては正しい。ただ、相方に「金をよこせ!」と何度も大声でわめき散らす浜谷の姿は、それはそれで異様だ。ここで浜谷もふと我に返り、「私はいったい何を言っている……」と反省して遠くを見つめる。浜谷は言葉尻を捉えて神田を追い詰めようとしたが、思わぬ勇み足で逆に気まずい状況に追い込まれてしまった。
このとき、浜谷に感情移入していたはずの視聴者は、不意にはしごを外される。女性っぽいことばかり言っている神田が「非常識」なのだと思っていたら、浜谷もいつのまにか別の意味での「非常識」を体現していた。ここからはむしろ、おかしかったはずの神田のほうが常識的に見えてくる。浜谷はどんどん常識を取り戻せなくなって路頭に迷い、その情けない姿が笑いを誘う。
ハマカーンの漫才で表現されているのは、日常会話のリアリティだ。私たちがふだん会話をするときには、一方的にボケ続ける「ボケ役」や、ただつっこむだけの「ツッコミ役」など存在しない。会話の流れによって、主導権を握る人は移り変わっていくし、誰がまともで誰がおかしいのかは決まっていない。1人が妙なことを言うときもあれば、別の人がもっとおかしなことを口走ってしまうこともある。それらすべてをひっくるめて、人と人との会話は面白い。ハマカーンは日常会話のスリリングな面白さのエッセンスを抽出して、漫才の形にまとめることに成功した。
いわばそれは、攻撃側と守備側が固定されている「野球」型の漫才ではなく、攻撃側と守備側がめまぐるしく入れ替わる「サッカー」型の漫才だ。どんな体勢からでも笑いが取れるハマカーンの最新型しゃべくり漫才は、漫才の歴史に名を残す極上の逸品だ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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