お笑い評論家・ラリー遠田が見た『THE MANZAI 2012』徹底批評!
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12月16日、年間で最も面白い漫才師を決める『THE MANZAI 2012』が東京・台場のフジテレビで行われ、ハマカーンが優勝を果たした。ハマカーンは浜谷健司、神田伸一郎の2人組。安定感のあるネタ運びで大きな笑いを巻き起こし、エントリー総数1740組の頂点に立った。
ハマカーンが決勝大会で披露した2本のネタはいずれも、ネタの途中で役柄に入ったりせずにしゃべりだけで構成される、いわゆる「しゃべくり漫才」だった。近年の若手お笑い界では、漫才の中でコントに入る「コント漫才(漫才コント)」が主流になっていて、しゃべくり漫才を演じる漫才師は少なくなっていた。そんな中でハマカーンは、従来のしゃべくり漫才のスタイルを一段進化させて、独自の型を作り出すことができた。
既存のしゃべくり漫才の多くは「ボケ主導型」と「ツッコミ主導型」に分けられる。会話の主導権を握っているのがボケ側かツッコミ側か、ということだ。ボケ主導型の漫才では、ボケ役が初めから「おかしな人」として登場して、ところどころにボケをまき散らしながら話を進めようとする。ツッコミ役は、それらのボケをひとつひとつ拾い上げるようにして、丁寧にツッコミを返していく。
一方、ツッコミ主導型の漫才では、ツッコミ役が中心になって話を進めることになる。それに対してボケ役は強引に割り込んだり、細かく茶々を入れたりしながら、ツッコミ役が話を進めるのを邪魔しようとする。この2つの漫才スタイルに共通しているのは、ボケ役が「非常識」を代表して、ツッコミ役が「常識」を代表している、ということ。それぞれがどっしりと構えているから、受け手は常識を体現するツッコミ側に感情移入して、落ち着いた気持ちで漫才を楽しむことができる。
ハマカーンの漫才も、一見するとツッコミ役の神田が話を進める「ツッコミ主導型」の漫才に見える。ただ、この漫才では、神田が全面的に「常識」を引き受けているとは言いがたい。1本目の漫才のテーマは「相方への不満」。冒頭、神田は相方である浜谷への不満があると切り出す。その内容は「女子は家を出るのに時間がかかるんだから、遅刻ぐらいで文句を言うな」「違う味のアイスを一緒に食べているんだから、『ひとくち食べる?』と聞いてほしい」など、女子が言うようなことばかり。女性っぽい一面を打ち出して「相手の気持ちをくみ取れ」と言う神田に対して、浜谷も最初は「お前、女子じゃねえだろ!」と力強く文句を言っている。この時点では、見る者の多くはどちらかと言えば浜谷のほうに共感しているはずだ。
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